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§7.6 ベンサムの勉強ぶり/ 尾崎行雄『民主政治読本』

ベンサムの勉強ぶり

 功利主義哲学の鼻祖であるベンサムは,オックスフォード大学の学生であった頃,ブラックストーン教授の講義をきいた.他の学生は夢中でノートを取るのに,ベンサムはただきいているだけでノートをとろうともしない.教授があやしんでそのゆえを問うたのに対し,彼は“私は先生の講義をきいて,あれはこう,これはああと是非を判断するに忙しくて,筆記のひまがない”と答えたそうだ.
 もし日本人にベンサムの半分でも批判的精神があったら,軍閥政府の命令に盲従して,無謀な戦争に飛び込むようなまねはしなかったであろう.もし日本の労働組合員にベンサムの半分ほどの批判的精神があったら,闘争本部の指令をうのみにしてゼネストに突入するようなまねをせず,マッカーサー元帥の命令をまたずして自制し自律することができたであろう.


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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年3月11日公開

誤植にお気づきの方は、ご連絡いただければ幸いです。

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