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§12.1 軍人とはそりが合わぬ/ 尾崎行雄『民主政治読本』

軍人とはそりが合わぬ

 だいたい私は軍閥から多年敵視せられた人間だ.軍備縮少を唱えたり,軍人の政治干与をぶえんりょに攻撃したのだから,そりの合わぬのはあたりまえだが,ただ1度偶然にも,私と少壮軍人とが同一歩調をとったようにみえたことがある.すなわち私がしきりに政党の腐敗堕落を攻撃していると,軍の若手も同じようなことをいい出したからである.
 しかし私の政党攻撃は,政党をよくし,力強いものにして,軍閥のばっこを押えつける権威ある政党政治を実現したいためであるが,軍人の政党攻撃は,政党と国民とを引きはなして政党の勢力を弱め,よってもって軍の政治支配を確立しようというこんたんであるから,本来その立場がちがう.同一歩調とみえたのはちょうど東を志す旅人と,西に行こうとする旅人が十字街頭でちょっとすれちがったようなもので,すぐ西東に別れてしまった.そして誠に残念千万なことには,政党を改良して政党政治を強化しようとした私の政党攻撃は失敗したが,政党と国民を離間して,軍人の政治支配を確立しようとした軍人の陰謀はまんまと図にあたった.


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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年4月17日公開

誤植にお気づきの方は、ご連絡いただければ幸いです。

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