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§13.2 国家の起源と沿革/ 尾崎行雄『民主政治読本』

国家の起源と沿革

 国家の起源については,色々な学説があって,或る者はこれを一定の区域内に住む人の自由な契約にもとづくとし,或る者はこれを権力者の支配欲に帰する.おそらく両方とも真実であろう.
 今日のいわゆる国家とは“完全に独立した主権によって統治せられる一定の地域と住民”の意味であるが,こうした近代的の国家は,世界を通じてごく最近に発達したものである.普通国家の原始的な形は,酋長の絶対専制であったろうといわれる.この時代においては,一般人民の生命財産はあげて酋長の所有に属し,ほとんど何んの自由も安全保証もなかったらしい.しかし,それでも酋長の支配をはなれてひとりでいるよりはましであったに相違ない.
 酋長時代から一歩進んだのが封建制度である.この時代になると,一般人民の生命財産は,酋長時代よりもずっと安全率は増して来たが,それでもまだ生殺与奪の全権は封建君主の独裁に委せられ,人民はただそのお慈悲と,御都合でやたらに殺されたり,むやみに掠奪せられないというに過ぎなかった.
 その封建制度から一歩進んだのが今日の国家である.そしてその起源はどうあろうとも,現代国家の使命目的乃至存在の理由が,その地域内に住んでいる人々の生命と財産の安全を保障し,且つ,最大多数の最大幸福をはかるにあることは一点疑う余地がない.


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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年4月28日公開

誤植にお気づきの方は、ご連絡いただければ幸いです。

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