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§10.7 米英の政党を見よ/ 尾崎行雄『民主政治読本』

米英の政党を見よ

 1866年,グラッドストーンの自由党内閣は,アイルランド自治案を提出して大敗北をきっした.その時の議席は,政府党の自由党が335,在野党なる保守党が249,この外に在野党であるが自治案を全面的に支持するハーネル一派が86で,日本流に計算すれば政府党の421に対し反対党の249差引き172票の大差をもって,自治案は成立すべく絶対に政府は敗けるはずのない形勢であった.
 だが案が上程せられ,はげしい討論ののち,いよいよ表決という段になると,意外にも政府案を可とするもの313,否とするもの343,すなわち30票の差をもって政府案が敗れた.
 なぜそんな結果になったかというと,政府党である自由党の中から政府案に反対するものが94名,欠席したもの13名を出したからである(この際,反対党名士サー・ロバート・ビールが政府案賛成の1票を入れたことも注意すべきである).先年,私がイギリスに行った時には,イギリスの婦人参政権問題はイギリスの治安にもかかわるような大問題であったが,保守党も自由党も皆これを自由問題とし内閣員までが賛否両派にわかれて大論戦をやっていた.
 これは決して珍らしい例ではない.イギリスの議会では,政府党の中から政府に反対するものがあらわれ,在野党の中から政府案を支持する者がとび出して来ることは毎度のことで,政府自身もそれを当然のことと思い,国民もそれを一向あやしまない.
 第1次ヨーロッパ大戦後,アメリカの大統領ウイルソンは,国際聯盟をつくることに熱心に努力してついに成功した.しかるにアメリカの上院は,自国の大統領が骨折ってつくった国際聯盟に加入することに反対した.
 ウイルソンは民主党の大統領である.しかし当時のアメリカ上院は,与党の民主党が多数を占めていたことを思えば,アメリカでも日本の政党のように,党議と称して議員の良心をしばるようなまねはしないことがわかるであろう.


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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年4月9日公開

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