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Bivalvia Quest〜タナゴが先か 二枚貝が先か

 タナゴの聖地”霞ヶ浦”。
 そんなイメージが怪しくなっている。近年の霞ヶ浦で釣れるタナゴのメインはオオタナゴ。他にはオカメタナゴ(タイリクバラタナゴ)も水路では釣れているらしいが…いずれも外来種である。私は外来種には特殊な寛容的立場をとっているが、在来種のヤリタナゴやアカヒレタビラ、カネヒラ、タナゴなどが風前の灯火では困る。

 なお、オオタナゴは中国からの外来魚。移入経路は真珠養殖用の二枚貝(ヒレイケチョウガイなど)と言われるが、証拠なし。産卵に関係している二枚貝も不明となっているが、おそらく先述の貝だと思われる。なお、話題?のダントウボウはタナゴではない。

オオタナゴAcheilognathus macropterus
分類上もタナゴ類だが、海のヒイラギを彷彿させる顔つき。

探究テーマはタナゴにするの?
「いや、二枚貝です。」

 高校生にタナゴを好きな生徒Oがいる。
 そんなO君は探究テーマにてっきりタナゴを選んでくると思っていた。しかし、選択したのは淡水二枚貝。
「だって先生、二枚貝が居なければタナゴは無理ですから。」
 いや、正解。二枚貝に卵を産むタナゴ類にとって、二枚貝が棲めない水域での未来は見えている。O君のテーマ設定に感心し、本気で彼の探究に付き合う決心を固めた。アメリカナマズ以来の興奮だ。

霞ヶ浦に貝を探しにいく

 そもそも何故霞ヶ浦のタナゴは減ったのか。
 原因に今まではブラックバスなどによる食害が挙げられていたが、事態はもっと複雑のようである。バスの捕食圧もゼロではない。しかし、同時に霞ヶ浦から在来タナゴの産卵場所が消えたのだ。二枚貝がいなくなった。
 アサザやアシをやたらと植え、緑だけを増やそうとした誤った自然事業により、二枚貝の生息地は泥に埋まった。そして農薬。詳しくネオニコ系農薬の問題提起をする山室教授の講演動画や著書をご参照ください。

 そんなことも知らなかった2022年秋。
 霞ヶ浦でO君の二枚貝の採集と生息環境の調査だ。O君によると二枚貝は砂泥底を好むとのこと。そうであればと心当たりのある東浦の砂泥底の浅瀬を漁ってみた。落ち葉が二枚貝に見えるものの、残念ながら収穫なし。

 その後も霞ヶ浦本湖ではピンと来る場所に巡り会わない。次に狙いを流入河川に絞るも…見つからない。
 そこで気分転換にと以前に見つけたドジョウだらけの水路に立ち寄ってみた。霞ヶ浦水系の流入河川…に流れ込む小川…に流れ込む水路だ。ところが、その水路でO君の直感がはたらいたようだ。
「先生、アタリかもしれない。」
 ドサッと水路に飛び込んだ彼は瞬く間に何種類もの二枚貝を手にしたのだ。
「やりました!」
 最高だ。案外、見つかるつかるときは、あっさりとしているのかもしれない。

もはや宝の山にしか見えない。


 我々はマルドブガイ・イシガイ・シジミに加えてカワニナとヒメタニシ。巻貝も加えれば合計5種類の淡水貝がひしめく聖地を発見したようだ。
 昼食の餃子定食が美味い。まさに宝探しをやり遂げた一日だった。
 にしても、霞ヶ浦の二枚貝は少な過ぎないか?ってことで先の書籍『魚はなぜ減った』に行き着く。

マツカサガイを倉敷で探してみた

 2023年の春を迎えた。
 我が家で恒例の春の岡山旅行。簡単にいえば妻の里帰りに便乗しているのだが、家族的に大切な行事だ。そして、岡山といえばここもまたタナゴ釣りの聖地的存在である。実際、ネット通販で見かける繁殖用の二枚貝の産地は岡山県であることが多い。
 そんなこんなで「ちょっと探してみるわ。」になった。昨年秋の感動に味を占めた単独採集である。狙いはマツカサガイ。関東地方には(おそらく)生息していない二枚貝だ。

 到着後、すぐにバスを釣りに通った里川や水路に久々に立ち寄る。残念ながら、その場所はしっかりとした泥底であることに気づく。試し漁るが撃沈。
 そこで、ネット上のタナゴ情報を参考にしてある水系の水路に注目する。
 やってきた目当ての水路には、タニシやカワニナっぽい這い痕がたくさんあった。二枚貝は見たところ…いない。それでも、網で何回か漁ってみると小さいイシガイ類が入った!

「…君の名は。」

 よくみると貝の形状はイシガイ系だが、殻頂周辺にマツカサガイのような凹凸がある。霞ヶ浦のイシガイには見られなかった特徴だ。すかさずO君に連絡を取って鑑定を依頼するも、彼にも判断がつかないらしい。とりあえず、大きめの個体をいくつか見繕って観察用に東京に持ち帰らせてもらうことにした。
 やはり、採集は楽しい。

考えるのが面白い。

 春休み中にO君と「あーでもない。」「こーでもない。」との話し合いを重ねた結果、現在はある現象に仮説を立てて検証中。

 この続きは…まだ誰にも分からない。もちろん疑問の解明はしていきたいが、
生き物の研究の一番の楽しみは、
「あーでもない。」「こーでもない。」
だと思っている。

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