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関東に淡水珍魚を求めて#1 〜クルター編〜

 関東地方の”珍魚”を求めた釣行を綴ってみることにした。主に外来魚を探すレポートになるが、魚種のチョイスに味を感じていただければ嬉しい。
 #1は”クルター類”である。

熱帯アジアの系譜”クルター類”

 関東地方で珍魚を狙うのに霞ヶ浦は外せない。
 今回は霞ヶ浦に棲むコイ科のクルター類の魚たちについて綴ってみることにする。
 クルター類の魚は熱帯アジアに広く分布しているが、この仲間の化石が日本の新生代中新世の地層から多く見つかる。しかし、現在日本に生息するのは1種類のみ。その魚は”ワタカ”という。本来は琵琶湖の固有種なのだが、湖産アユの放流に伴って日本中で顔を見ることができる。れっきとした国内外来魚である。
 さらに近年、中国からの外来種が定着した。詳細はのちに触れるが、霞ヶ浦には日本では珍しい2種のクルター類が棲んでいるということになる。
 2022年の夏。私はクルター類をじっくりと堪能する為にそんな霞ヶ浦へと出向いた。

地質時代からの生き残り”ワタカ”

 ワタカは気負わずとも釣れる魚だが、私にはお気に入りのポイントがある。そこは産卵を意識した綺麗な魚が集まる場所だ。
 今年もそこにやってきた。
 水面をそっとのぞきこむと…「いないか?」。小さくちぎったパンを水面に撒く。すると、浮かぶパンに近づいては離れ、離れては近づくという慎重な魚が現れた。
 いた。
 警戒しているのだろうが、その警戒は食欲に負けてあっという間に薄れていくのが可愛らしい。そこで、伝家の宝刀パンコイ釣法を繰り出す。

 針を忍ばせた水面のパンが水中に消し込むと同時に糸を張って魚の重みをとらえる。キュンキュンッと竿をしならせてくれた後に水面から一気に抜きあげた。
 正真正銘のワタカだ。お腹から尾びれにかけたあたりの形状がクルター類の特徴である。弱らないうちにすぐにリリース。またね。

一見普通の魚。魅力が伝わりにくいからこその”珍”。

 何匹もつれそうだが、もう1匹だけ釣らせて頂いて、今年のワタカ釣りを終了した。来年もここに来ることは確実だろう。
 私は白銀の綺麗な魚体に大陸の魚達の姿を重ねてみた。

中華クルター”団頭魴”

 ワタカを切り上げた後は、いよいよ“団頭魴(ダントウボウ)”を探しに行くことにした。ところが困ったことに、このダントウボウには事前情報が少なかったのでどんな場所が良いのかは分からない。ただ、ヘラブナ釣りをする方々が釣っているみたいだ。情報が少なすぎるのは”珍”すぎるが故の事態だが、まぁ宝探しみたいで良い。
 とりあえず、「ワタカの仲間はパンで釣れるでしょう。」ということで、比較的魚の集まりやすそうな場所にパンを付けた仕掛けを投入。水面に浮かせても反応がなかったので、重りをつけて水底に沈めることにした。

 霞ヶ浦の水底は非常に多様性に富んでいる。何がいるか分からないが、ダントウボウも混ざっている可能性は高い。しかし、真っ先に釣れるのは霞ヶ浦名物の貪欲なアメリカナマズであった。
 彼らのアタリは一撃で餌をかっさらってくから分かりやすい。そんなに時に、変わったクククッと違う手応えが伝わった。
 水中で銀色の魚体が翻る。
「お。おぉっ!」
 ほとんど苦労することなく、ダントウボウが現れた。私の運も大したものだ。

日本的ではない形が新鮮だ。
シュッとしたお腹がクルター類の魅力

 これがダントウボウか。
 お腹の形は、見事にクルター類のもの。ナイフのようにシュッとしているのはワタカと同じだ。
 体高の高さや薄さが特徴の容姿は在来種にはなかなか見ることのないものであり、ついつい見惚れてしまった。大陸のニュアンスが漂うシルエットはとても新鮮だった。それぞれのヒレが黒ぽいのも熱帯魚によく見る特徴だ。

 こうして、運に助けられた一面もありつつ、鮮やかに霞ヶ浦のクルター旅をやり遂げることができたのである。

外来魚問題に対する私の気持ち

 それにしても、外来魚問題はいつでも深刻な問題である。他水域の種が異なる水域に定着することは、間違いなく生態系のバランスを崩すことになる。
 しかし、放流された魚たちに罪はない。従って、捕獲したら即殺処分という発想、駆除という発想にはやや否定的な感情を持ってしまう。特に、霞ヶ浦のような多様な外来魚の溢れる場所では、在来魚を減らさない工夫に力を入れることの方が有意義ではないだろうか。
 新しい魚との出会いに感動しつつも、この魚の未来に不安も感じてしまうのが切ない。

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