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台本「千切れてちょうだい⑥」

隆「俺の事?」
芳江「昔2人でさぁ、学生の頃一緒に行ったじゃない浜名湖」
隆「大学ん時?」
芳江「浜名湖着いてさぁ、いざ白鳥のボート乗ろうって時に足滑らせてあたし湖に落下しそうになってさ。その時にあなた私助けようとして私の手握ってさぁ、結果2人で落っこちたでしょ。憶えてる?」
隆「あ~……」
芳江「それ思い出したの落ちながら。あぁ~あの時は結局2人揃って落っこちたけどあなた優しかったなぁって思ったら、突然肩のあたりから糸? かなんかで引っ張られてるような感じがしてさ」
隆「糸? 肩から……糸?」
芳江「そ。糸。ほっそ~~~~い糸。右の肩からつーって、身体の中から糸出てんのよ。でこの家のベランダにむすばってるの糸が。そのお陰で落っこちるのが止まってさ宙ぶらりんよ、44階くらいのんとこで。(笑い)仕方がないからその細い糸手繰って6階分くらい上がってきたワケ」
隆「……身体の中から、糸?」
芳江「うんそう」
隆「今もあるか? それ、」
芳江「ん、あ、そう言えば無くなってるね」
隆「そうか……」
芳江「アレかね、命を粗末にするなっていう神様のアレなのかもね、」
隆「アレって……?」
芳江「だからセカンドチャンス的なさ」
隆「セカンド、チャンスか……。とにかく無事で、」

芳江、突然生まれたての小鹿の様に立ち上がる。

隆「ど、どうした!?」
芳江「トイレ」
隆「ああ……。大丈夫……?」
芳江「糸1本で6階分這い上がったから全身筋肉痛なの……」
隆「手、貸そうか?」
芳江「いい。(ゆっくりトイレに移動しながら)あのさ」
隆「……なに?」
芳江「あの女との事許したわけじゃないからね」
隆「……」
芳江「セカンドチャンスの「チャンス」は私にとっての「チャンス」であって、あなたにとってはセカンド「バトル」が開始されたって事を忘れてもらっては困(る)」
隆「泉田君とは金輪際浮気はしない、芳江、俺には……お前だけだ」
芳江「……」
隆「芳江、」
芳江「後でゆっくり話しましょう」

芳江、小鹿の様にゆっくり退室。

隆「……」

泉田、別の入り口から入室。

泉田「社長、蓮見社長はゲストルームでお休みになられています」
隆「そうか。有難う」
泉田「あの、社長、先程の事ですけども」
隆「ああ。正直俺も驚いている。だが妻がベランダから這い上がって来た事に関しては、いずれ必ず科学的に解明して、」
泉田「違います」
隆「ん?」
泉田「違います。私が申しておりますのは、その事ではありません」
隆「え違うの?」
泉田「確かに奥様が這い上がられた時には心臓が止まるかと思いましたがそれもトリックがあっての事でしょう? 私に事前の打ち合わせなしに行動に移されたのには、正直ムッとしましたけど、今話したい事ではありません」
隆「……えっと、あ。従業員の事か。そうだね、1050人というのは大きな進展だった、1000人増えたのだからね。でも、ここで妥協はせずに家族同然の我が社の従業員をもっと、」
泉田「違います」
隆「ん?」
泉田「従業員の数の事でもありません。確かに1050人で妥協してくれよとは思いましたけど、そのお話でもありません」
隆「……んっと、じゃぁ何か(な)」
泉田「どすけべメイドの件です」
隆「……」
泉田「メイド? ……私はメイドではありません秘書です」
隆「……そう、だね、いやすまなかった。あれは妻が言っていたのをつい、」
泉田「訂正して下さい」
隆「も、勿論だよ……君はどすけべではないしメイ、」
泉田「どすけべなのは認めます」
隆「泉田君」
隆「メイドではありません訂正お願いします。どすけべなのは認めます」
隆「泉田君、」
泉田「美千代でお願いします。確かに今まで、神田社長とお会いするまでこの身を武器に色々な会社を渡り歩いて参りました。もちろん枕営業的な事もした事は多々あります。どすけべなのは認めます」
隆「やめなさい」
泉田「週5枕で」
隆「やめなさい!」

続。

老若男女問わず笑顔で楽しむ事が出来る惨劇をモットーに、短編小説を書いています。