台本「千切れてちょうだい①」
都内にあるタワーマンションの最上階。その一室。
神田家リビング。
部屋の中央に、テーブルとソファーが4脚。そこに、隆と芳江が向かい合うようにして座っている。
舞台正面奥の扉の先にはトイレ・風呂があり、舞台下手の扉の先には客間と玄関が。
舞台上手、芳江の背後にはとても大きく、最高に眺めの良い窓がある。
芳江「あなたが仕事をしている時、働いている時、家にいるのは私よ」
隆「……」
芳江「あなたがお仕事をしている時、働いている時、あなたにアイディアを言うのも私よ」
隆「……」
芳江「あなたが家にいる時、休んでいる時、家にいるは私ね」
隆「……」
芳江「私、いるわね」
隆「そう、そうねうん……」
芳江「あのどすけべメイドはいるの?」
隆「え?」
芳江「どすけべメイドよ」
隆「あ、」
間。
隆「いやあの、どすけべでもメイドでもないか、」
芳江「いるの?」
隆「……いるよ有能な、秘書だし、」
芳江「すけべな事にも有能な」
隆「やめなさい、」
芳江「いるの?」
隆「いるよ、クビにはできない」
芳江「いるのね」
隆「大事な社員だから、そりゃいるさ」
芳江「そ」
間。
隆「……」
芳江 「私も責任は感じているの。会社がこういう事になってしまったのは共同経営者の私にも原因があるんだし」
芳江、立ち上がり窓のそばへ。
隆「今会社を潰すわけにはいかない、社員の生活を守らなきゃいけない。何が何でも、何が何でも今日の契約だけはまとめないと……。今はまずこの後の方針を、」
芳江「そうね。そこホント大事だってわかっているんだけど、でもあのどすけべメイドだけは許せなくて」
隆「どすけべメイドは止めなさい。泉田君だ」
芳江「会社・私・どすけべ、どれが大事か順番に並べてみなさいよ」
隆「お前・会社、そして泉田君だ」
芳江「あなたの本心はわかってるのよ。契約が上手くいったらいったでどすけべと一緒になるつもりなんでしょ」
隆「違う、違うぞ、泉田君とは違うぞ」
芳江「絶対に、幸せにはさせないからね」
隆「誤解だ俺と泉田君は本当に、」
芳江「こんな感じで夫婦生活が終わって本当に残念、」
芳江、窓を開けベランダに出る。
芳江「あぁい~お天気! (隆を見て)ごきげんよう~」
芳江、ぴょんと飛び降りる。
隆「え」
間。
風の音。
隆「芳江……? 芳江……芳江―――!!」
隆、窓の方へゆっくり近づく。しかし恐怖心から、下を覗き見る事が出来ない。
間。
玄関チャイムが鳴る。
隆、反応できず。
もう一度チャイムが鳴る。
間。
ドアが開く音がする。廊下を歩く足音が近づいてきて、リビングの扉が開く。
秘書の泉田登場。
泉田「社長、いらしたんじゃないですか」
続。
老若男女問わず笑顔で楽しむ事が出来る惨劇をモットーに、短編小説を書いています。