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台本「外来種」

喫茶店内。
男1と女がいる。
そして少し離れた所に、白い帽子をかぶって座っている男3の姿。

男1「えっ!?」
女「……ごめんなさい」
男1「え、え? それどういうこと?」
女「……もう、きっくんとは付き合えないの……」
男1「え……そんな突然、俺なにか、気に障ること言った……?」
女「(首を振る)」
男1「一緒に暮らそうって言ってくれたじゃないか、同棲しようって言ってたじゃないか、俺新居まで決めて、」
女「……ゴメンナサイ……」

間。

男1「理由、教えてもらわないと……何が何やらサッパリわからないよ……唐突、唐突過ぎて……頼むから、理由を教えて、」
女「理由……?」
男1「う、うん……」

間。

女「……私ね……砂かけババアなの……」

間。

男1「……ん?」
女「そう……」
男1「……もう1回、言ってもらえる?」
女「……砂かけ、ババアなの……」

間。

女「え、聞こえなかった?」
男1「聞こえた。あの、まさかの答えだったから……もうちょっと、もうちょっとさぁマシな嘘あるでしょ」
女「本当なの」
男1「……」
女「いつも私と一緒に食事すると口の中に砂が入ったり、私と会話すると耳の中に砂が入るって……不思議がってたでしょ?」
男1「……うん、まぁ」
女「それよ。私が使うとスマートフォンの表面ザラザラになるでしょ?」
男1「うん……」
女「それよ。私の部屋、どこもかしこもジャリジャリするって言ってたでしょ?」
男1「うん……」
女「それよ。私が、砂かけババアだから」
男1「俺、そんなんじゃ引っ掛からないよ?」
女「ホラ(指先から砂を出す)」
男1「あ、砂、」
女「サイババみたいでしょ?」
男1「指から、出て来てる……」

しばらくサラサラ砂が流れ落ちる。

男1「……」
女「やろうと思えば砂場くらいすぐ出来るよ。やろっか?」
男1「いい、いいよ、止めて砂止めて……。ホントに、砂かけババア、」
女「うん。正確には、オーストリア砂かけババアっていうんだけど」
男1「……ん? なに?」
女「砂かけ科ババア目オーストリア砂かけババアって言うんだけど」
男1「もう1回お願い」
女「砂かけ科ババア目オーストリア砂かけババア」
男1「……オーストリア?」
女「私出身オーストリアなの」
男1「オーストリア出身の、」
女「砂かけババア」
男1「ババア目ってなんだよ……。ねぇ、いるの? オーストリアにも砂かけババアっているの?」
女「いるいる。世界中何処にだって妖怪存在しているんだから。よぼっか?ベトナムかまいたち」
男1「いや、いい呼ばないで……本当に妖怪っているんだ……」
女「だから、もう別れましょ」
男1「でも、でもさ、仮に、仮に百歩譲って君が砂かけババアだとして、」
女「オーストリア砂かけババア」
男1「オーストリアの砂かけババアだとして……でもだよ? こうして普通に会って話も出来るわけだし。今までだってちゃんと付き合えて来たわけなんだから………別に、別れなくたって良いんじゃないの?」
女「……そうもいかないの」
男1「どうして……?」
女「前の旦那が私を追って日本に来たみたいで」
男1「……ん?」
女「前の旦那が私を追って日本に来たみたいで」
男1「……結婚してたの?」
女 「あ、うん」
男1「あ~結婚……してたんだ、」
女「離婚してるんだけどね。今まで何回か結婚した事はあるんだけど、アイツマジ最悪で。どこに逃げても復縁を迫って追って来るの。半ばストーカーなの」
男1「え? ん? 何回か、してるの? 結婚」
女「妖怪は移り気なのすぐ結婚するの」
男1「あぁそう……」
女「で、前の旦那が私を追って日本に来たみたいだから、逃げなきゃまずくて」
男1「逃げなくたって警察に言えば、」
女「無駄無駄。前の旦那、妖怪だもん。ラスベガス虹色オオゆりかべ」
男1「賑やかな、名前だね……」
女「アイツが暴れると、色んな人に迷惑かかっうし、きっくんだってきっと石にされちゃうし」
男1「石……」
女「やっと日本にも馴染めたところだったんだけど、ゴメンね。しばらくは友人のカリフォルニア猫娘のところに身を寄せるつもり」

 男2、入って来る。

男2「砂かけ、そろそろ行かないとヤベェぞ」
女「わかってる」
男1「こちらの方は?」
女「元カレのブラジリアンこなき爺」
男1「元カレ……」
女「日本に来てから18人くらいの妖怪と付き合ったけど、その1人」
男2「チィッス」
男1「18……」
女「でも人間はきっくんだけだよ」
男1「あ、うん……」
女「色んな妖怪出て、混乱しちゃうよね」
男1「色んな事で、今ショック……」
男2「外でロシアン一反もめんが待ってる。早く行こう」

女の子、入って来る。

女の子「早く行こうよ~」
男1「……この子は?」
女「娘」
男1「娘!?」
女の子「はじめまして」
男1「……子供いたんだ、」
女「うんあのぉ、最初の旦那との子」

子供達、ぞろぞろ入って来る。

子供達「おか~さ~ん! 行こうよ~!」
女「ハイハイ。もうちょっと待ってて!」
男1「この子た、」
女「うちの子」
男1「だろうね。たくさんいるね。え、みんな妖怪なの?」
女「妖怪と妖怪から産まれたんだもんそりゃ妖怪だよ。今ここに6人かな? あと外に18人いて、」
男1「24人!?」
女「ご挨拶なさい」
子供達「こんにちは~」
男1「あの、僕らが同棲する時はもちろんこの子達って、」
女「一緒に暮らすつもりだったよ」
男1「あの家1LDKだったけど、」
男の子「この人が新しいビックダディ?」
男1「……新しいビックダディって……なに?」
女「もう違うの、この人は新しいビックダディじゃないのよ」
男1「新しいビックダディって、なに?」
男の子「なんだ~新しいビックダディじゃないのかよ~」
男1「あんま、似てないね、」
女「みんな父親違うからね~」
男1「…え、結婚って、何回くらい、」
女「オーストリアで3回、アメリカで2回、スペインで64回、日本で1回」
男1「スペインで、何かあったの……?」

地面が揺れ始める。

男1「地震!?」
男2「砂かけ! 奴が来るぞ!」
男1「奴って前の旦那さん!? (窓に駆け寄り外を見る)え!? あんなデカイの!?」
女「うんほぼゴジラ……。もう行かないと」
男1「……あ、あぁ、うん」
女「きっくん、こんな形で別れる事になってしまって本当に御免なさい」
男1「いや、あんまり、あの、気にしないで。俺今結構大丈夫」
女「今日色々聞いて驚いたと思うけど……」
男1「妖怪も、キミのプライベートも色々、うん……」
女「それじゃ…元気でね、きっくん」

女・男2退場。
外から一反もめんが飛んで行く音がする。

元旦那の声「ま~~てぇ~~~!!」

巨人の様な足音も一反もめんを追って去っていく。
間。

男1「………………普通の、恋愛したい……」

🈡

老若男女問わず笑顔で楽しむ事が出来る惨劇をモットーに、短編小説を書いています。