台本「変な寝言が忘れられない🈡」
「前回までのあらすじ。旅館に泊まりに来たバーベキュー同好会の面々。下の河原で騒ぎがあり、見に行って来た男1だったが戻って来ると他の仲間はみな熟睡していた。男1は仲間達が次々と喋りだす妙な寝言を、楽しん聞いていたのだが……」
部屋の外の廊下から、話し声が聞こえて来る。
女の声「え、そうなの?」
男の声「うん、死体、東京の人間らしいってよ」
女の声「観光客……?」
男の声「だろう?」
女の声「わー」
男の声「メッタ刺しだったって」
外からの音聞こえなくなる。
男1「うっわ、マジかっ、殺人!? え、殺人事件……!? え、ちょっとちょっと、これ大変ですよ!! あれ殺人だったんですって、どうしましょう! …………(他のメンバーを起こそうとするが、全く起きない)わ、全然起きない、えなんで?」
間。
男1「(外を見て)明日釣りとか……絶対無理だなぁ」
間。
男1「そんな爆睡するほど疲れる? 来ただけで」
男2「……世の中にはな、トイレで流れない物だってあるんだぜ……」
男1「まだ? ……結構、あると思いますよ」
女1「罪の意識とか……豆腐レンジャー2号とか」
男1「豆腐レンジャー?」
男3「なんであんな事しちゃったのかなぁ。雪見大福チンして下さい」
男1「溶けちゃう溶けちゃう。あのそれよりも外が、」
男4「やり直してぇ~。そこらの水で俺のブサイク治してぇ~」
男1「水って(笑う)」
女2「どうしょもないですよ~。田所君あんなことになっちゃったんだし」
間。
男1「ん?」
男2「カップラーメンメロン味!」
男1「いや、ん? この一連物凄く……これ寝言だよね?」
男2「田所がサークル辞める」
男1「わまた田所。まあ辞めたい的な事は言ってますけどねアイツ」
男3「これは事件だよ」
女2「裏切り」
男1「裏切り? っていうか先の寝言まんま言ってるだけなのに、なんか凄い会話っぽくなってる。え、誰が誰を裏切ったんですか? 教えてくれっかな」
男2「一体どういうつもりなんだ!」
男1「詳しい事は、教えてくれない」
男4「奴は怒りに身を震わせた」
男1「なんか、キャプテンが怒ったみたいになってますね(苦笑い)」
女3「これは発端」
男1「だから何の?」
女1「3列に並べて順番にキスして行けば喧嘩にならないんでしょ? 電池で動く妖精あげるから喧嘩しないで」
男2「うるさい!」
男3「(突然、パン!と手を叩く)」
男1「わ」
女1「男が振り下ろした手が女の頬に直撃した。女の身体は枯れ枝の様に崩れ落ち硬い壁面にしたたかに身体をぶつけたのである」
男1「なんか、キャプテンが暴力振るったみたいな感じになっている。これはキャプテンが誰かとなんかあったって、こと、なのかな……? そういう寝言の、流れ?」
男3「彼女を奪われた猫の表情で考えてみろ」
男1「奪われた……? 彼女を? (男2と女1を見て)あっ、あ。そういう、奪われ方を。御免なさい寝ている皆さんに一度伺いますけど、これ寝言なんですよね?」
スース―寝息が聞こえる。
男1「寝ている」
女2「とんでもない裏切りですよ」
男1「だからなにが、」
男3「事情を聞いた俺達は、彼の頼みを聞く事にした」
男1「皆さんで解決しようとしたわけですね、その、彼女さんのアレを」
男4「話し合いで解決しようと思ってな。いる人間は全て呼び出した」
男3「だけど」
女2「呼び出したのにまさかの失敗」
男1「なんか、しちゃった、呼び出した人に」
男3「骨折だけって言いませんでしたっけ?」
男1「え、え、暴力? 」
女2「血が止まらないの、心臓止めて」
男1「心臓!?」
男4「早くバナナ切って鼻に詰めなきゃアイツの命が、」
女2「だってプロ級だもん」
男1「……先輩の、ナイフの、腕?」
男2「よっせや~い」
間。
男3「冷たくなって動かなくなるパスタ」
女2「ザオラル1回12万円になります」
男1「……何だよ、こわいな。殺しちゃってるじゃん寝言とは言え……」
男2「世の中にはな、トイレで流れない物だってあるんだぜ」
女1「罪の意識とか、豆腐レンジャー2号とか」
男3「なんであんな事しちゃったのかなぁ。雪見大福チンして下さい」
男4「やり直してぇ~。そこらの水で俺のブサイク治してぇ~」
女2「どうしょもないですよ。死んじゃったんだし」
男1「え……なんなのこれ……」
女1「幸せになれた筈なの、家買って、車買って……指輪大事にしなきゃ」
男4「ダメだ」
男1「……」
男4「色々面倒だ」
男2「俺は絶対認めない!」
女2「裏切りですよ」
男2「……やるしかない」
男3「俺、3万円」
男1「そんな、そんな、いやこれはさすがに妄想のアレだよ、」
男4「現実なんてそんなものさ、メキシコ人」
女2「これが顛末」
間。
女1「眠りたいのに眠れないのよ……いつも横になるとあの人の顔が浮かぶの。腐った豆腐の臭いのする部屋で、3列に並んだ彼らがあの人を順番に責め立てた。あの人を助けるために私買うわ、核弾頭。でも間に合わなかった。結局扇風機の箱に押し込まれたの、あの人。扇風機の中の人は…どうなっちゃったの?」
男1「……」
女1「た~すけ~てく~ださ~い~…た~すけ~てく~ださ~い~…た~すけ~てく~ださ~い~」
男1「なんなんだよこれは!!」
パトカーのサイレンが近付いてくる。
一瞬の静寂。
起き出す仲間達。
男2「帰って来てたのか……どうした顔色悪いぞ」
男3「真っ青じゃん」
男1「………あの、お聞きしたいんですけど、」
男2「え?」
男1「田所は……」
すると、ドアが開き男が入って来る。
田所である。
田所「スンマセン遅れました」
男4「おっせーよバカヤロウ!」
田所「いやいや人身事故で」
女1「連絡ぐらいしてよ」
田所「携帯の充電、切れちゃって、」
女2「あんま遅いからなんかあったのかと思ったじゃん」
田所「スンマセン、」
男1「…………」
男3「大丈夫か?」
男1「は、はい、」
田所「なんか染谷教授が突然休んだせいでバタバタしちゃって、スミマセン、」
男2「じゃ、揃った所で温泉行くか」
女2「立てます~?」
男4「立てるよ。あたたたた……」
ゾロゾロと出て行く。
1人唖然として室内に残される男1
男1「そりゃそうだ、寝言だ寝言、」
出て行く男1。
遠くから聞こえて来るラジオの音。
ラジオ「家庭用扇風機の箱に入れられていた遺体の身元は大学教授・染谷大輔と確認されました。両足が骨折している他、心臓を鋭利なナイフで一突きにされており、これが恐らく致命傷、との事です。両方の鼻の穴に押し込まれたバナナと【トゥルーラブ】と書かれたメッセージから、警察は猟奇殺人の可能性も視野に入れて捜査を……」
🈡
老若男女問わず笑顔で楽しむ事が出来る惨劇をモットーに、短編小説を書いています。