台本「処方①」

ボソボソと暗闇の中から声がしてくる。
 
看護婦の声「はぁ……あぁ、そうなんですか……クビになられて……」
男の声「ええ、そうなんです……」
看護婦の声「それは、いつ頃……?」
男の声「半年前で……」
看護婦の声「……何度か、チャレンジなされました?」
男の声「やってはみたんですけど……ちょっと、なんていうか……」
看護婦の声「……やりきれない感じ?」
男の声「です、ね。そう、なんですよね……」
看護婦の声「何なさいました? 飛び降り?」
男の声「では無いです……」
看護婦の声「服毒?」
男の声「でもないです……」
 
徐々に明るくなってくる。
そこは病院の診察室。
看護婦と男がいる。
 
看護婦「リストカッ、」
男「してないです……」
看護婦「ガス?」
男「いえいえ……」
看護婦「え、なになさったの?」
男「首を……」
看護婦「(紙にメモしながら)ああ、絞められて。はいはい……」
男「そうです……」
看護婦「(紙にメモをしながら)なるほど、首を絞めるチャレンジなされたけれど、失敗なさったと……」
男「はい……」
看護婦「ネクタイ? それとも荒縄ですか?」
男「……割と太めの、ごそごそした奴でした」
看護婦「荒縄ですね…(紙にメモをしながら)…。え、半年前からずっと絞められてる感じで?」
男「まぁ、あの、ずっと絞めてる続けているワケじゃないんですけど……」
看護婦「わかってますよ、あなたが絞めっぱなしじゃ無い事くらい……」
男「すみません……」
看護婦「わかりました。もうすぐ先生いらっしゃると思いますから、もう少々お待ち下さい」
男「はい……」
 
看護婦、退場。
男、1人診察室に取り残される。
隣の診察室から、先ほどの看護婦と別の患者の声がボソボソと聞こえる。
 
看護婦の声「そうなんですか……お1人で生活してらっしゃるワケですね……」
男2の声「はい……」
看護婦の声「で、チャレンジはいつ頃から?」
男2の声「妻が出て行ったのが、半年前なので……半年前からです……」
 
聞こえてくる声に、男はそれとなく聞き耳を立てる。
 
男2の声「何種類かはしてみたんですが……」
看護婦の声「飛び降り?」
男2の声「一応……」
看護婦の声「服毒?」
男2の声「も、ですね。はい……他は睡眠薬と飛び込みと首つりとガスと炭とか、色々試したんですけど、どれもダメで……」
看護婦の声「お強いんですね」
男2の声「そうなんですかね……とにかく、そんなこんなで見ちゃいまして……」
看護婦の声「わかりました。先生がいらっしゃるまでもう少々お待ちください」
男2の声「あの……カード、こちらで貰えるって聞いてきたんですけど……」
看護婦の声「先生がいらっしゃるまでもう少々お待ち下さい」
 
医者が、男のいる病室に入って来る。
 
医者「お待たせしてスミマセンね」
男「いえ……」
医者「(看護婦の書き残したカルテや問診票を見て)首を、半年前から?」
男「はい……」
医者「(若干の笑顔で)荒縄?」
男「はい……」
医者「(頷き)あぁそう」

続。

老若男女問わず笑顔で楽しむ事が出来る惨劇をモットーに、短編小説を書いています。