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小説「ペナルティ」

サッカーの実況席。
アナウンサーと解説者がいる。

「アギーレジャパン、本日はライバル、オーストラリアとの1戦。解説はサッカーといえばこの方、山村一朗太さんです。宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
「さぁ、試合が開始されました! 先日のホンジュラス戦に6‐0で勝利したアギーレジャパン、今日はどんなプレーを見せてくれるのか、非常に期待されるところです」

観客のどよめきと、ホイッスルの音がする。

「おおっと……ここで? イエローカード! 開始30秒で、内馬、内馬にイエローカードが出ました!」
「早速ですね、」
「これは幸先が悪いですね、」
「立ち上がりが遅れると思いますよ、」
「チーム1つになって、そして、世界に戦っていく。その意識を改めて確認する場が、このオランダ戦なのだ」と、話してくれていた内馬、開始30秒でまさかのイエローカード、」
「残念ですね、」
「あ、内馬、ちょっと笑ってますか?」
「笑うしかないんでしょう、」
「内馬篤次、早速の苦笑いと言ったとこでしょうか……。さて、試合続行していきます。右から左に攻めて行くのが日本、左から右に攻めて行くのがオーストリアですが、」

観客のどよめきと、ホイッスルの音がする。

「まさか、また試合が止まりました、」

審判が選手に、何のカードを出すかと思ったところでクレジットカードを出し、高らかに掲げる。

「おおっと!! ここで香西に、イエローでもなくレッドでもなく、銀に輝くクレジットカードが出ました!」
「痛いですねー」
「クレジットカードが出ましたので、香西の預金の5%が没収されます、これは相当持って行かれるんじゃありませんか?」
「香西、泣いています、」
「泣くでしょう。せっかく稼いだ金が消えて行くんですから、」

審判、グラウンドを去って行く。

「……試合が再開されました。香西、無くなった預金に動揺せずプレーを続けられるのか、非常に気になるところです、」

観客のどよめきと、ホイッスルの音がする。

「まただ! また審判が笛を吹きました! しかも……香西だ! これはキツイ!」
「まだ立ち直っていなかったんでしょう、見て下さい、足元がフラフラしている。早く現実を受け止めて欲しいですね」
「今度はなんだ、何のカードだ!?」

審判、香西に可愛らしいカードを照れ臭そうにそっと差し出す。

「あ、バースデーカードです! これを受け取ったら近々開催される審判のお誕生日会に出席しなくてはいけません! 面識がなくても行かなくてはいけない審判のお誕生日会、これはキツイ! あ、でも香西ちょっと笑ってますね、」
「そうでしょう、預金額の5%持って行かれた事を思えば、審判のお誕生日会に出席する事なんて軽いものです」
「なるほど。香西と審判が戻って行きます……。さぁ、今度こそサッカーっぽい所を見せて頂きたいですね、」

観客のどよめきと、ホイッスルの音がする。

「と思った矢先に! 誰だ今度は!? 今日はホイッスルが止まらない!!! 誰なんだ!? ………あ、香西ぃ~! 香西ぃ~! 香西3回目~!!! さぁ、審判の出すカードは……」

審判、Tカードを出す。

「ツタヤポイントカードだ!! このペナルティを貰うと、香西のTカードに6ポイント加算されるという、逆にお得なペナルティです!」
「でも香西、泣いていますね、」
「そうでしょう、なぜ最初にクレジットカードが出たのか、悔やまれてならないハズです……。こんなにも打ちのめされている香西ですが、アギーレ監督、香西を下げません、」
「もう、今日は無理なんじゃないですかね、」
「本日の試合会場ヤンマースタジアム長居、4万7千人の観客全てが、今、香西の今後を心配しています。とにかく、」

観客のどよめきと、ホイッスルの音がする。

「香西かっ!? 香西なのか!?」

審判、別の選手にレッドカードを出す。

「いや、本郷です! 本郷佳助です! まさか! ここで本郷にレッドカード! 始まって早々に、エース本郷が退場です! 日本、本郷の退場! まだ、香西と審判のやり取りしか見ていないと言うのに、本郷が退場!」
「あー本郷選手、何とも言えない表情をしていますね、」
「そうでしょう、全ての選手、全ての国民の期待を背負う本郷の、まさかの1発退場、これは、私も何と言っていいかわかりません。……あ、でも、……ん? 香川、ほっとした表情をしています」
「そうでしょう、やっと一息入れられるワケですから」
「本郷、今、ゆっくりとグラウンドを後にしていきます。今夜は浴びるようにお酒を、」 
「飲むでしょうね、」
「強めのお酒で気持ちを切り替えて頂きたいものです」
「さぁ、人数が1人減ってしまったアギーレジャパン、今の所、ペナルティを貰った以外、特に何のプレーもありません」
「こんな時だからこそ積極的に点を取りに行ってほしいです」

観客のどよめきと、ホイッスルの音がする。

「……ま、まさかっ!? ………やはり香西だ~! 今度は何だ、どうなってしまうんだ!!!」

審判、ドナーカードを出す。

「ドナーカードだぁぁぁぁ~! 天が与えた試練なのか、最悪のカードが香西に出てしまった~! 泣いている、香西、泣いている!!!」
「泣くでしょう」
「ドナーカードが出たので香西は臓器を1つ提供、いや、没収されなければなりません! 審判が香西に提供させる臓器は……」

「腎臓!」

「腎臓だぁぁぁぁぁぁ~!! ペナルティとして、香西、腎臓を没収されます! これは痛い、あまりに痛い! クレジットカードで預金を引き落とされ、見ず知らずの審判のお誕生日会に呼ばれ、Tカードに6ポイントチャージされ、ドナーカードで臓器を1つ持って行かれてしまう、香西! 今日は散々だ香西~!!!! ……今、ゆっくりと……だがしかし確かな足取りで!香西が病院に向かっていきます……臓器を1つ摘出しに香西がフィールドを後にして行きます! 頑張れ香川、お前のキックオフは手術台の上に寝た時から始まるのかも知れないっ!」
「見事なプレーで摘出して頂きたいものです」
「さぁ、引き続き、試合続行です」

🈡

老若男女問わず笑顔で楽しむ事が出来る惨劇をモットーに、短編小説を書いています。