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台本「処方🈡」


医者「生きているっていう事は、毎日生きていられるっていう事は、それだけでもう何物にも代えがたい宝物なんですからね」
男「は、はぁ……」
医者「ですから私はあなたに逝く事をお勧めはしません。どうか、どうかもう一度、考えて治してはもらえませんか?」
男「……わかりました……考えてみます……」
医者「良かった……良かったです。もし何かありましたらいつでもいらして下さい。今日は精神安定剤を処方しておきましょう」

喋る医者の背後で空間がバリバリと立てに裂け始める。

男「!?」

裂けめの向こうに、何もない黒い空間が広がる。
男はあまりの事に絶句し凝視し続けるが、医者は全く気付いていない。
 
医者「(笑顔で)いや~良かった良かった。安易に死は選んじゃ良くないんですから」
 
やがて裂け目から、剛毛にまみれたぶっとい丸太の様な太くて青い手が現れ、医者の首を背後から握り締める。
 
医者「運動療法も効果的なので心と身体の両方から改善していきま……(首を強く握られ)ふぐ!!」
男「!!?」
青鬼「ほらほら」
医者「(苦しそうだが尚も話す)フォットサルとか結構お勧め……」
青鬼「ほらほら」
医者「く、苦しい……」
青鬼「逝くよ」
医者「ダメダメお仕事あるから生きたいから」
青鬼「ほらほら逝こうよ」
医者「(机の引き出しから数枚のカードを取り出し、裂け目に差し出す)カード……カードだよ……あげるから、帰って……」
青鬼「(受け取り)うわこれは、嬉しい。どうもねー」
 
青い手は医者の首から離れ裂け目に消えていき、すぐに裂け目も閉じる。
 
男「……」
医者「……」
男「……」
医者「ねー……生きるって事は素晴らしいですよね」
男「……ちょ、ちょっと何ですか、アレ、青いなんか…(ハッと気づき)まさかさっきから話してた青いのって、アレですか、」
医者「まぁそうですね……。1日3回朝昼晩にああしてやって来てはね、私をあの世に連れて行こうとするんですよ」
男「……なんで?」
医者「私が自殺からギリギリで生還したからです、アレはそういう人間を探して連れて行くんです。さっき話しましたけど、私死にかけましたでしょう? 以来の関係です」
男「……連れていく?」
医者「地獄に連れて行こうとするんですよ、奴は」
男「……先生なんか渡してましたけど、アレなんですか……?」
医者「あぁ……(カードを男に渡し)これです」
男「これ? え? これ?」
医者「ええ」
男「これアニメの、」
医者「ランバラルですね」
男「……ガン、ダム?」
医者「青い巨星です」
男「これ渡したんですか? これ貰って帰ったんですか、」
医者「ランバラルが大好きで、なぜかこれあげると一旦は帰るんです」
男「さっきお隣が騒がしかったのも、」
医者「そうです」
男「先生は5年間ずっとこれを……。よくわかりました…(椅子から立ち上がり)もう二度と死ぬなんて考えません、真っ当に生きていきます」
医者「良かったです」

男、立ち上がり帰ろうとする。

医者「ただアレは死に損なった人以外にも、一度でも姿を見た人間も連れて行こうとするんです」
男「……え?」
医者「あなたの元にも、朝昼晩にやってきますよ」
 
徐々に暗くなってくる。
 
男「え、え……そんな……」
医者「とりあえずランバラルのカードは3ヶ月分処方しておきますね……お大事にどうぞ……」
 
暗転。

🈡

老若男女問わず笑顔で楽しむ事が出来る惨劇をモットーに、短編小説を書いています。