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6割もらえない休業手当、9割補助されない雇用調整助成金

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言と営業自粛でついに世の中に認知された休業手当の存在。
そして誤った情報が多いこと、多いこと。

6割支払われません!

ほとんどがこんな感じで説明してます

中小企業で働く従業員の月収をわかりやすくするために仮に10万円とした場合を見てみます。
企業が従業員に支払う休業手当は、最低でも『賃金の6割』と義務づけられています。この場合は6万円です。

https://news.yahoo.co.jp/byline/mizushimahiroaki/20200429-00175816/

残念ながら月収10万円としたときに企業が義務付けられているのはおおよそ4.2万円。手取りだと2.7万円くらい。
そして企業側に対して、支払った休業手当の最大90%(中小企業、解雇をしない場合)が助成金として返ってきます。
すると、企業から見たときの実質コストは4.2万円の10% 4200円のように思いますが実際のところは2万円弱ほどになります。

月収10万円だと実感湧きにくいので月収30万円にすると、

本人の手取り 8万円
企業のコスト 6万円

になります。
都内だと家賃水道光熱費すら払えない人もいると思います。


会社にとっても1人6万円とだけみたら大したことなさそうですが、このお金は生産活動や営業活動になんら貢献しないお金です。経営・管理会計的な目線で見ると営業利益から引かれるイメージになります。
原価3割、人件費3割、家賃等固定費3割、利益1割
というオーソドックスなモデルで考えると1人あたり6万円払うためには1人あたり60万円を売り上げないといけない計算になります。

社員は生活出来ないし、企業も雇用を維持していられません。
自ら仕事を探す人も出てくるし、企業も解雇せざるを得なくなります。
まさに、雇用調整助成金ですね、皮肉なネーミングです。

なぜこんなにも異なるのか解説していきます。

休業手当の計算

確かに休業手当は平均賃金の6割です。間違いありません。
平均賃金というは労働法上の概念であり、実際の賃金の平均とは異なります。ただ、平均賃金と言ってる手前、実際の賃金の平均です。

それにも関わらず、実際の休業手当は月収の6割にはなりません。理由は基準となる日数の違いです。

平均賃金:月の暦日数が基準
休業手当:月の所定労働日数が基準

細かい計算を上げていっても仕方がないのでポイントだけ。

平均賃金は月収÷月の日数によって計算され、1日あたりの金額が算出されます。その6割が休業手当になります。
月収30万円だと、

平均賃金:30万円÷30日
     =1万円
休業手当:1万円✕60%
     =6000円

つまり、働いた日1日あたりの金額、ではなく在籍していた日1日あたりの金額ですね。

それに対して休業手当は、働く予定だった日(所定労働日)にしか出ません。大体の業種は1ヶ月(約30日)の所定労働日数は平均21日ですね。

つまり、
約30日で割ったものを21日で掛け戻すという暴挙
だいたい70%くらいに下がります。

月収30万円で大まかに計算すると、

30万円÷30日×60%×21日
12.6万円

18万円だと思ってたらビックリするでしょうね。

社会保険料の罠

当たり前の話ですね。
社会保険料がかかります。
国民健康保険とか国民年金は収入が減ると減額や免除がありますが、会社で入る社会保険にそんな制度はありません。
通常時と同じ額が引かれます。

大体15%なので月収30万円だと毎月4.5万円くらいです。

休業手当12.6万円−社会保険料4.5万円
8.1万円

給与明細見たらビックリしますね。

社会保険料の罠その2

そして、給与明細に表示されないのが企業負担の社会保険料です。
もちろん休業手当ではないので雇用調整助成金の対象外ですし、一円たりとも減額や免除されません。

ざっくり社員負担と同額とすると、
月収30万円の社員に対して払っているのは同じく4.5万円

ちなみに社会保険料は毎年4-6月給与をもとに1年間の金額が決まる(定時改定)のと、それ以外でも給与が上がったり下がったりすると変更(随時改定)になることがあります。
が、休業中はどちらも対象外になる(休業していない通常の月で判定する)ケースが多いです。ここらへんは結構ルールが複雑なので気になる方は日本年金機構のページとにらめっこしてください。

つまり、4月〜6月で休業手当12.6万円しか受け取っていなくても社会保険料が下がることはほとんどないです。

企業の負担コスト

というわけで、雇用調整助成金は休業手当12.6万円の90%、11.3万円もらえるので企業が払うコストとしては、

休業手当12.6万円−雇用調整助成金11.3万円+社会保険料4.5万円
=5.8万円

おおよそ6万円。多いですね。
キッチン4人、ホール3人の計7人の社員がいるような中規模飲食店だと休業分の人件費だけで40万円かかってきます。

しかも、助成金はすぐに出るわけではないので休業手当+社会保険料の17.1万円✕7人分の約120万円が現金として出ていきます
家賃やその他の固定費、返済が他に200万円くらいはあると思うので1ヶ月で少なくとも300万円以上のキャッシュが出ていく計算になります。

日本政策金融公庫の資金繰り対策の融資も申請から入金まで1ヶ月~2ヶ月かかっているというニュースも聞きます。内部留保などの手元資金は固定費の3ヶ月分が目安と言われますが、3月からの自粛ムードは5月いっぱいまで3ヶ月続くし、インバウンド売上が大きい企業は2月からすでに大きなダメージを受けており、すでに3ヶ月を超えています。

そして申請手続きは非常にめんどくさく、社労士に申請報酬をはらったり、経営者にとって最も貴重な時間を使いながら書類と悪戦苦闘してます。

法定以上の休業手当を払うと会社はさらにやばい

社員にとって全然生活に足りないということもあり、
「(助成金9割補助なんだから)休業手当は月収同額を払え」
という声もあります。

もちろんこれをやったら社員は嬉しいですが会社はやばいですね、、、、、

月収30万円を払う場合
雇用調整助成金の罠、上限8330円がやってきます。
21日に対して30万円払うことになりますが、8330円×21日=約17.5万円しか助成金が返ってきません。

企業の負担としては

休業手当30万円−雇用調整助成金17.5万円+社会保険料4.5万円
=17万円

地方で社員雇えるレベルの出費になります。

まとめ

いったいどういうプロセスでこんな制度が作られたのか、、、、、
実質的な支給率は42%くらいなのではじめから
休業手当は給与の45%支給
とかではだめだったんでしょうか。

会社、社員ともに苦しい上に、この仕組みを知らない人が多いので労使対立もこれから激しくなるんじゃないかと思います。

申請手続きも簡易化されたとはいえ、それでも煩雑です。
社会保険労務士の既得権益を守るための制度なんじゃないかくらい思います。
こういった情報提供でプレゼンスを高め、助成金申請の手数料で儲け、さらに労使問題で案件を取ってくる、と、、、、

これをきっかけに制度が変わることを願ってます。
(変わらないと思いますが、、、、、)

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