あなたの知らない外資系のインセンティブ設計

前回予告した通り、今回は外資系のインセンティブについて、その詳細を取りあげます。私は外資系企業を2社しか経験していないのですが、その2社それぞれ異なるインセンティブ設計だったので、ある程度射程の広いナレッジを提供できると思います。

外資系のCompensation Planに馴染みがない方は、先に以下の記事に目を通すことをお勧めします。

OTEとPay Mix

インセンティブはOTEとPay Mixが前提となります。例えばOTEが1000万円で、Pay Mixが80:20だと、インセンティブは年間200万円です。このインセンティブは、必ずQuotaと紐づきます。Quotaとは達成目標のことであり、営業系の職種においては売上目標とほぼ同じ意味です。Quotaが、たとえば2億円だとすると、年度(外資系ではFiscal YearまたはFY)で2億円の売り上げを達成すれば、インセンティブが200万円払われるということです。違う見方をすると、売上1ごとに0.01=売上金額に対して1%のインセンティブが発生するという計算になります(インセンティブ2百万円 / 売上目標200百万円=0.01)。

Quotaは年度で決まった金額を四半期ごとに分割することが一般的だと思います。年度で2億円のQuotaなら、四半期ごとに5000万円ずつQuotaが設定されるイメージです。実際には、単純に按分することはなく、シーズナリティを考慮し、合計で年度のQuotaになるように各四半期ごとにメリハリがつけられて調整されます。

私の場合どうかというと、最初の外資系(以降A社)ではOTEが1200万円でPay Mixが70:30=インセンティブが360万円だったのに対して、現職(以降B社)ではOTEが1850万円でPay Mixが80:20=インセンティブが370万円です。ここだけ見ると大きな違いはないように見えますが、実は色々異なります。

Attainment

先ほど単純に売上と言いましたが、すべての売上がターゲットに対する実績金額としてカウントされるわけではありません。カウントされる売上とカウントされない売上があります。例えば、チャネル(リセラー)経由の売上はカウントされなかったり、一定のライセンス数以下はカウントされなかったり、会社や組織によってルールがあります。そして実際に実績としてカウントされる金額のことをAttainmentと呼びます。

Attaimentに関していうと、営業とその他の営業関連職で大きな違いがあります。営業はマネージャーを除いて、個人の売上がAttainmentになりますが、例えばPresalesと呼ばれる職種(私もそうです)だと、日本全体の売上がAttainmentとなることがあります。特にPresales組織が数人規模だと、日本全体の売上連動となっているケースが多いと思います。

私の場合、2社共に個人ではなく日本全体の売上連動です。違いで言うと、B社がチャネル経由は原則としてAttainmentにならない一方、A社は全てAttainmentでした。これはA社がDirect Sales(Outbound Salesとも言う)中心でChanneel Salesの専門チームがなかったことが理由です。

Credit

もう1つ大事な概念がCreditです。Creditとは、Attainmentに対して発生するインセンティブのことです。具体的に、1億円のAttainmentに対して、100万円のインセンティブが発生した場合、この100万円がCreditです。

この時に理解しておくべきなのが、AttainmentとCreditの関係です。最初の方に、売上金額(Attainment)の1%のインセンティブ(Credit)が発生する例を示しました。こう書くと、Attainmentが1億円でも100円でも1%のCreditが発生するように見えますが、実は会社によってはCreditが発生する下限を定めているところもあるそうです。例えばAttainment率が50%を超えないとCreditは0円とかそういうことですね。個人的に、そのようなケースに遭遇したことはないので、どれくらい一般的な条件なのかは不明です。

Cap

目標を下回った場合にCreditが発生しない場合があると言う話をしましたが、逆に目標を上回った場合のCreditはどうなるのでしょうか。それはCapがあるかどうかに依ります。CapとはCreditの上限のことです。例えばCapが500万円だとすると、売上をどれだけ超過しても、もらえるインセンティブは1円も増えません。インセンティブがOTEに占める割合の大きい営業関連職にとってCapの有無は重大関心事です。青天井という無限のアップサイドリスクがあるからこそ、OTEは1000万円なのに実際は600万円だった、というダウンサイドリスクを許容できるわけです。

個人的には、2社ともCapなしでした。

Accelerator

AttainmentとCreditの関係は基本的に固定です。Attainment率が10%でも50%でも100%でも、Creditされる比率は変わりません。つまり、Attainmentに対して1%のCreditが発生する条件なら、Attainmentが100万円でも1億円でも1%のCreditになります。しかし、その比率が変わる場合があります。それがAcceleratorです。

Acceleratorはその名が示す通り、Attaimentが一定の割合を超えるとCreditされる金額が「加速」するインセンティブ設計です。一般的には、年度なり四半期の売上目標を超えると、Acceleratorが設定されます。1%だった比率が達成率に応じて増加するわけです。

私の場合、1社目はAcceleratorはありませんでしたが、現職では達成目標超過に加えて、複数年契約などいくつかのAcceleratorが存在します。何かしらのAcceleratorはまず間違いなく発生するので、前職と比べて現職のインセンティブ設計は、OTE上のインセンティブ金額以上のうまみがありますね。

SPIF

SPIFはSpecial Incentive Fundsの略で、特別インセンティブのことです。会社が注力したいと思っている戦略製品があった場合に、積極的に販売を促す「餌」としてSPIFを設定する場合があります。名前は異なっても日系でも同じような制度はあると思います。

SPIFは2社ともにあるにはありますが、恩恵を受けた記憶はあまりないです。外資系テック企業の場合、SPIFが発生するような新しい製品はHQがある地域(アメリカなど)でまずローンチされ、その後日本を含む別のリージョンに展開されることが多いので、日本で売れるようになる頃にはSPIFがなくなっている場合が多い印象です。

実際の支払い

最後に、発生したCreditがいつ支払われるのかも会社によって異なります。一般的なのは、四半期ごとに設定されたQuotaに対するAttainmentに応じて、四半期ごとに支払われるケースかなと思います。例えば1-3月のトータルのAttainmentに対してCreditが計算され、その金額が4月に支払われるイメージです。1社目のA社は実際にそうでした。

一方で現職のB社では、インセンティブが毎月支払われます。Creditが発生してなくてもです。具体的には、まず370万円という年間のインセンティブが四半期ごとのQuotaに応じて按分されます。仮にQ1(1-3月)のインセンティブが100万円と定まったとします。次に、最初の2ヶ月については、それぞれ総額の25%を無条件で支払います。つまり、1月分の25万円が2月に、2月分の25万円が3月に支払われます。3月はどうなるかというと、もしQuotaを100%達成したら、残りの50%にあたる50万円が4月に支払われることになります。もし、目標を超過したら、その差額も含めて、例えば70万円が4月に支払われます。逆に、下回れば、その差額を含めて、例えば30万円だけが4月に支払われるわけです。

では、もしQ1のAttainmentが0円だったらどうなるでしょう? 恐ろしいことに既に受け取っている50万円を返済するためにベースサラリーから控除されます。これはPay Mixが50:50だとかなり痛いですよね・・・。例えば、毎月ベースが50万円だとすると、四半期のインセンティブが150万円、先払いされたインセンティブはその50%の75万円なので、仮に最終月のベースから全額控除となると-25万円となり、無給どころか足が出て、会社に振り込みしないといけないことになります。

まとめ - 何を知るべきか

営業関連職での外資系への転職を考えている人は、単純なインセンティブの額面だけでなく、その中身であるところのインセンティブ設計を把握することが大事です。

・Capがあるかどうか
・Creditが発生する最低ラインがあるかどうか
・Acceleratorがあるか
・支払条件とタイミングはどうか(特に後で控除となる可能性があるか)

こうした情報はオファーレターには記載されないことが多いです。間違いなくターゲットを100%達成できるような安定したビジネスをしている会社であれば良いですが、浮き沈みが激しい会社、日本法人を立ち上げて間もない会社だと、こうした設計の違いが、生活基盤に想像以上のインパクトを及ぼす可能性が高くなるので、可能な限り探りを入れた方が良いと思います。

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