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至福の25分間はGoûter(おやつ)。

イチコはクレープをつくった。

本当は少しめんどうくさかったけれど、子どもたちが「食べたーい!」と、数日前に言っていたから。作るとしたら今日だけど、マキシムは会議続きでクレープを作る時間はなさそうだし、じゃあ、イチコがやるか、ってなもんで、午後4時のGoûter(おやつ)に合わせて、予告なきクレープ。日本では『おやつの3時』だが、フランスでは『おやつの4時』なのだ。


そのおやつ時間のすこし前、庭で妹リリーと遊んでいたお姉ちゃんエマが、ふたり分のGoûter(おやつ)を取りに家の中に戻ってきた。と、同時に、イチコがクレープをつくっていることに気づいて、「わー!Bon surprise !!(びっくり!)Merci !!!」と、大喜び。エマは、まだお庭にいるリリーもおどろかせてやろうと、クレープをきれいにお皿にセッティングして、すてきなおやつセットをつくります。

と、何にも言わないのに、クレープのおいしいにおいに釣られて、会議の合間にすかさず、マキシムも仕事部屋から降りてきた。

「あれ、今日はもう会議終わったの?」とたずねると、「うん。でもあと25分後にまた別のがある」らしい。「あーじゃあ、クレープをみんなでゆっくり食べる時間、ないね」と、いじわるい顔で言ってみたら、できあがったばかりのクレープを見てマキシムは、もんのすごく、うれしそうな顔をした。

「食べるよ。食べたいっ!」



おっけー。では、Nutellaと砂糖、ひとり2枚のクレープに2つの甘い味を添えて、みんなでお庭で食べましょう。

「リリー!Goûter(おやつ)ですよー!」
「うん!ん?それなに??…あ!クレープー!!!」



「…んあぁぁ…おいしい」

至福の顔でクレープをほおばるマキシムとその娘たち。みんな、おんなじ顔をしている。わざわざ作るのはめんどうくさかったけれど、こんなしがないクレープ de イチコで、こんな顔になるんだったら、(まあ、たまにはこんなサプライズもいいな)と、イチコは思った。

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