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不可解の先へ~omoriの話

ずっと何か書こうと思って、寝かせすぎて腐ってきたまであるのでそろそろ世の中に出そうということになった。もううまくなくてきれいでもないし全く心地よくまとまっていない。それでいいではないか。
読み返すとだいたい主人公の話しかしていない。
ストーリーの核心のネタバレを含むため、omoriを今プレイ中の方や、
これからプレイを予定されている方は見ないほうがいいかもしれない。




このゲームの主人公は、私にとってとにかく不可解だった。

まず夢の世界でのアバターたるomoriであるが、
最初の印象は、色鮮やかな世界や他のキャラと比べてとにかく無表情、
無色で、何を考えてるか全くわからない、そんな感じだった。
こいつは「無」なのか…?と思ってゲームを進めてみると、
戦闘中だけはやたら表情豊かで、アッパー系の感情の3段階目になると、
主人公大丈夫かお前という顔付きにすらなる。
スキルの技名も一人だけ物騒さというかダーティさが段違いである。
一人だけナイフを振り回しヤバい表情で戦う主人公を見ると、夢の世界とは一体何なのだろうか、と考え込んでしまった。
せっかく自分が考えた自分だけの世界なのだから、理想化された、
なりたい自分になろうとするのが自然ではないのだろうか。
そんなにナイフをぶん回す奴になりたかったのか、omori…

一度クリアしておいてその発想はおかしいだろと思われるかもしれないが、つい最近まで真剣にそう思っていた。

結局最終的には、あれは自分のなりたかった姿ではなく、
せめて姿と在り方だけでも罪に自覚的にいようとしてああなったのではないかという結論に達した。(彼なりのサイコな犯人としての姿、もしくは自分を殺す処刑人としての姿…?)

今書いていて思ったことなのだが、彼は恐らく自己矛盾の塊なのである。

そうやって自分の姿やあり方をサイコな犯人ですと定めていても、
殺してしまった姉や巻きこんでしまったバジルは自分のことを
一切責めてこない。現実世界では真相に至る手がかりの壊れたバイオリンのある部屋も見えない(見ない)ようにしているのは周到である。
真実の断片を語る枝珊瑚や足長おじさんも、真実を語り終えたら速やかに自殺しているように、彼が望むゴールとはそこにあったのかもしれない。
屋上から飛び降りるエンドの曲がグッドエンドよりも楽しそうな曲なことにずっと引っかかっていたのだが、本来の望むところにたどり着けたという意味では彼にとってはいい結末だったのかもしれない。

一方で、現実で一度外に出てみると、嫌でも4年間に失ったものや自分の無力さを思い知ることになる。戦闘だってブイブイ言わせていた夢の世界から一転して、ほとんど全ての戦いで苦戦を強いられる。
恐らく薬局でアイテムを買いこんで長期戦で倒すなどの荒業を使わないと
普通には勝てないだろう。
現実でナイフを振り回したらサイコ野郎扱いされるというのを突きつけられるところも好きだ。プレイヤーにとってはそれまで操作してきた主人公だが、他の人から見ると最初は明らかに事件を起こしそうなヤベー奴にしか見えないところもよい。(すでに起こしているとも言えるが)

現実には嫌なこともあるが希望もある。そう思えるのがピザ屋の配達バイトをはじめとする各種アルバイトのミニゲームだ。
お前4年も引きこもってたのによく知らない人の家にピザを配達できるな…と思わずツッコミを入れずにはいられないが、人間案外やってみるとできてしまうのかもしれない。案ずるより産むがやすしである。
※ここからは完全に余談になるが、わけあって半年ほど自室に引きこもった経験がある私としては、本当に4年間家にこもっていたなら、配達のアルバイトに出るだけの体力はないだろうと思うし、たぶん声が出ないだろうと思う。まあ野暮なことは言いっこなしである。

たぶん初見の人はまず選ばないであろう家の外に出ないルートは、あのもはやどうしようもない取り返しのつかなさをほとんど感じずに淡々と進行していくところに静かな怖さがあった。失ったものがあったとしても、失ったことに気づかなければそれは幸せなのだろうか。

全体的に振り返ってみて、勝手な理由のために犠牲にした親友を救う=死ぬために走るという意味では「走れメロス」にかなり近いものがあるなと勝手に思った。自殺ルートやそのまま引っ越しルートはさしずめセリヌンティウスを見捨てたメロスと言ったところだろうか。しかしそうやって一時逃げ延びたところで、いずれ肥大化した「なにか」に飲み込まれるのだろう。
どの道を選んだにせよ、自分を一度は社会的か物理的に殺さないといけないのだ。それでまだ見ぬ未来を歩いて行けるかもしれない可能性が広がるという意味でのグッドエンドなのだろう。

個人的には、もしこれがゲームでなく国語の教科書に載っていたら、
グッドエンドの先の展開を作文してみようという課題が出される気がする。
仮に一番救いのない想定をしてみると、みんなに真実を打ち明け、ひどいバッシング(当然とも言えるが)を受けて結局自殺することになったとしても、友人を取り残さずに前のめりに死んだだけ少しはよかったのではないだろうかと思ってしまう。

全くまとまっていないなりに総括すると、彼は人間的な弱さとかずるさを持っていて私はけっこう好きだ。

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