大山顕 「新写真論」

 ここ最近、読んだ中で一番面白かった本として、大山顕の「新写真論」について、少し書いてみたい。


 「新」とタイトルにある通り、かなり斬新な内容だ。スマートフォン中心の写真論だが、自身の豊富な体験と知識を元に現代的な写真論が展開されている。言われてみると、何でこういう事を思いつかなかったのだろうという話ばかりだ。

 特に観光的な行動に面白いものが多い。お話だけでなく、行動そのものが面白いと思う事も多い。

 例えば、実際に歩いてGoogle マップに絵を描くという「GPS地上絵」などは実際にそういうジャンルがあるのかどうか分からないが(と書きつつ、ググったらすぐ分かるので、あるという事がすぐ分かったが)、そういう行為自体が面白いと感じた。またアビー・ロードでの写真の撮り方もそんな方法があるのか!とある種のアートとしても優れた視点を提示しているような気もする(いや、これも単にそういうジャンルがあるのかもしれないが、自分は知らなかった)。

 全体的にこうした実際の行動の上に論が成り立ってるので、知らない世界を知っていく感じで面白く読める。ある種、エッセイ的な文章だが、スマホやSNSにおける写真の在り方、建築や風景、土地との関わり方など、論として、かなり刺激を与えてくれる。

 特に写真と土地との関わり方などは、言われてみると、そうだなと思う事が多い。そもそも考えると伝統的な写真の時代から写真と土地は切っても切り離せない要素の一つなのだろうが、これにGPSやSNSなどの話が絡まると、まるで違う風景が展開するようにも感じるし。写真の本質的な役割についても考えてみたくなる。業務写真の記述なども色々と示唆に富んでいるように思う。

 この論考は、ゲンロンβという電子マガジンに連載されていたものであるが、「ゲンロン0 観光客の哲学」をはじめとして観光的な内容の記述が多いゲンロンとの出会いも、著者の論考に刺激を与えているのだろう。というより、自分自身、連載時から読んでいたので、例えば、同時期に掲載されていた東浩紀による「触視的平面」の話などが、この本を読む時に何度も頭に浮かんできた。それも含めて、新しい時代の実像を踏まえた新しい論考と言えるのではないか。

 無論、アート作品を嗜好する者としては、こうした話は写真というジャンルの傍流に属するような感じがなくもない。感覚的に言うと、写真論というものは、もっと違う部分に本筋があるような気もするし。本書に掲載されている「香港スキャニング」の写真も素晴らしく、この部分などは全体の論旨に対する、ある種の批評性を帯びているようにも見えてしまう。

 しかしながら、実際の今の世の中においては明らかに本書の話の方が主流で、プリントよりもデジタル平面(触視的平面)の方を楽しめる人の方が主流になっているのも間違いないだろう。その意味において、今後、写真のことを考える時に、この本の論旨を考えることは極めて重要になるはずで、その延長に各種の表現の発展もあり得るのではないか。

 いずれにしても、自分は写真のことには、それほど詳しいわけでもないが、この本は、今後の写真(論)にとって、外せない一冊となっているように感じた。そして、これは写真だけでなく、アートにも、イラストにも、あるいは、一般的な社会論としても適用し得る話なのではないかとも思う。


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