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さつま王子 第6話「史上最大の作戦」


 (第1話はこちら

 国の一揆を平定したは良いものの、さつまの国と幕府との仲は、先の一揆でより一層、悪化するものとなり、それをもってまた王への人心も遠く離れて行くものとなっていた。

 これに反して、今や国の人心を急速に集めつつあったのが、さつま王子であり、その配下も精鋭で固められつつあり、もはや、実質的に王子の軍団は王の脅威になりつつあった。

 しかし、この脅威。グローバルな観点でいえば、今しかないタイミングと言えたかもしれないが、王と王子との関係で言えば、少しばかり目立つのが早すぎたと言えよう。

 無論、これは、さくらじま一揆との兼ね合いの中での選択とも言えたから、仕方のないタイミングではあった。しかしながら、その事で王子の行動は制限され、部下は一揆平定の功の名の下に王子の下から離れなければいけない事態に陥ってしまったのだから、民の求心とは逆に事態は王子の不利に働く。

 そう。王は、ここに至って、王子の軍団を分断した。とりわけ大きいのは、佐吉を王の側近に取り立てる人事を敢行(かんこう)した事だ。

 元より、王は佐吉がのどから手が出る程、欲しい人材であった。しかしながら、王子の幼い頃、その身を守れるのは佐吉以外ないと見て、一時、王子の護衛に就かした経緯がある。そして、王子の成長した、ここに至っての現状を考えれば、王としては、王子も、佐吉も、両方の人間を上手く自分の為に利用したいと考え、再び、佐吉を自身の部下として配置するに至ったのである。

 加えて、王は雲助を国の湾岸護衛の警備隊長に抜擢し、王子の下から去らせた。なおかつ、さくらじま先生は荒神退治の恩赦を受けたものの謹慎の身として城に幽閉。そして、当の王子もこれからは王への道を歩ませるとの名目の下、城で子飼いにし、閑散とした事務仕事を中心に命じて、行動を取りづらいよう、大幅な人事改変を敢行したのだ。

 これにより、王子は、一見、手も足ももがれ、何も出来ない身になったかのように見えたが、しかし、王の目に届かなかったのが、王がその存在すらよく知らない「いぶし鉄鋼(有)」と国からは元より追われる身であった隠れ武士の「響鬼虎之介(ひびきとらのすけ)」である。

 この2人は、いま現在、王子と意気投合して、ある「作戦」を遂行する為に秘密裏に国を抜け出す準備をしていた。王子の手引きする裏ルートより、その史上最大の作戦が、いま正に決行されようとしている。その作戦の名はっ!?そう!

 サッチャー連合っ!!!


 「なーなー。さきちー。お前、ホントに親父のとこに行くのかよ?」

 「そりゃ行きますよ。しょーがないでしょー。命令なんだから。あんたより王様の方が偉いんだし。イヤなら、あんたもさっさと偉くなりなさいよ。」

 「それを言うなよ。じゃあ、親父、ぶっ倒すじゃん!」

 「出来ないでしょ?まだ、その時期でもないし。出来れば、王も巻き込んでやりましょうよ。サッチャー連合。」

 「チャーシューの国!まさか、一揆の間に、アイツら、独立するとは思わなかったじゃん。これで幕府は敵が増えたし。良い展開ではあるじゃん。」

 「いや。チャーシューもくせ者ですよ。向こうのとんこつ王子は、なかなか骨のある奴ですからねー。」

 「ああ。一度、食ってみたいじゃん、じゃなかった。会ってみたいじゃん!」

 「しかし、今は厳しいです!!さつまも、チャーシューも、幕府に目をつけられてますからね。その両国の人間が会うとなれば、アウトでしょー!」

 「うん。だからこそ、お前が必要だったんじゃん。でも、仕方ないじゃん!」

 「仕方ないです、王子。でも、まだ鉄鋼(有)たちがいるじゃないですか!マジでラッキーでしたよ。鉄鋼(有)たちが味方になってくれたのは!!」

 「いや。味方でもないじゃん。でも、アイツら、頭のいい奴らじゃん。こっちの話は飲み込んでくれたっぽいじゃん。だから、アイツらに賭けるしかないじゃん!!」

 「そうです!」

 「しかし、そうは言っても、史上最大の作戦に自分も動けなければ、自分の信用の置ける人間も動かせないというのは痛いじゃん。ていうか、お前、これ、親父にぜってーチクっちゃダメじゃん!」

 「チクるわけないでしょ!あんた!全然、オレのこと信用してないでしょ!狩るぞ!!」

 「狩れるもんなら狩ってみろ!!オレの首狩ったら、お前も打ち首じゃん!!せいぜい王の下でびくびくしながら生きればいいじゃん!!」

 「確かに!!不安はあります。不安はありますよ〜、王子〜。」

 「確かに親父は侮れないじゃん。気をつけるじゃん!気をつければいいじゃん!」

 「気をつけますっ!!王子もお気をつけをっ!!お互い、作戦遂行まで大人しくしましょう。」

 「そうじゃん!鉄鋼(有)、頼むぞ!やってくれなきゃダメじゃん!!」


 ◇◇◇


 「いよいよですな。」

 「んだな。いよいよチャーシューの国との交渉だぁ。」

 「チャーシュー!父ちゃん!チャーシューうどん!おれ食べたいぜ!!」

 「バカ言ってんでねえ!銀次郎。こっからは大事な仕事すんだから。お前もちっとは自覚を持て!バカ!」

 「まあまあ。先ずは長崎に上陸ですから。皿うどんぐらいなら食わしてやれるでしょう!」

 「虎さん!!」

 「いやいや鉄鋼さん。そのぐらいのたのしみが無いと息がつまりますぞ。お金は私が出しますから。」

 「やったー!!」

 「銀次郎!!」

 「まあまあ。では、行きますよ。いざ。長崎へ!!向かうはエゲレス商人たち。先ずはエゲレスとの密約。そして、武器を仕入れた上でチャーシューの国へ!!その交渉の相手は、とんこつ王子。この、とんこつ王子を秘密裏にさつまへ連れて来る!!!これが私らのお役目です!!」

 「うむ。そればやらねば、ウチらの稲がさつま芋になった甲斐もねえってこった。」

 「そうですね。このさつま芋さえあれば、必ずエゲレスも乗って来るはず!!」

 「へへへ。そっかー。皿うどん楽しみだぜ!!」

 「銀次郎、そったら事ばっか言ってっと、おめえ置いてくぞ!!」

 「えええええ!!やだよー!!皿うどんーーーー!!!」


 ◇◇◇


 さつま王子が鉄鋼(有)たちを裏で走らせている最中、さつま王の方も着々とその準備を築いていた。

 佐吉は、王の側近となり、その全貌を知るに連れ、だんだんと王子の事が心配になりはじめていた。しかし、同時に自身がこの王の下で働ける事を誇りにも思っていた。王に付き従う毎日はそれはそれは佐吉にとって刺激的で、王子の付き人とはワンランク、スケールの違う、この国を、いやさ、世界を左右する、恐るべき作戦の中にいる日々であった。

 佐吉は、王子にその王の作戦の大まかな所を伝えるべきかどうか悩んでいた。伝えるにしても、その手段も取り急ぎは不可能で、それはそれで大掛かりな作戦が必要となるものではあっただろう。無理だ。

 とにもかくにも、佐吉はこの王の作戦の全貌を知るにつけ、さつまの国は予想以上にもはや独立国なのだという事を理解した。そして、あの爆発するさつま芋の意味。それも予測よりも遥かに深い意味があった事に驚く。「芋」。それは外交の為のさつまの最大のカード。

 そう。この幕末の乱世は、きっと芋に染まるに違いない、新たな時代の幕開けの日になるであろう。佐吉は、その王の作戦を知るにつれ、そう確信し、その時を今か今かと待ちわびているのであった。


◇◇◇


 「皿うどん、うめええええええ!!!!」


 銀次郎は、隠密のお役目などハナから知ったこっちゃなく、とんこつ王子を交えたその席でひたすら皿うどんを食い始めていた。ていうか、とんこつ王子、もういた!!!!!!!

 そう。とんこつ王子はお忍びで長崎に来ていたのだ!!!その事を知った鉄鋼(有)たちは、長崎の皿うどん屋で無事にとんこつ王子に会う事が出来たが、時既に遅かったのである。ていうか、何?時既に遅いというかなんというか、えええええええ!!?マジですか!!!????もう世の中そんな事になっていたの!!?と鉄鋼(有)たちは驚いた。驚愕の事実に流石の鉄鋼(有)も冷静さを失い、次の手を完全に無くしてしまうほどであった。さつま王子は窮地である。ただ一つ言えるのは、その事だ。さつま王はすごい。


 鉄鋼(有)たちが知った真実は、こうであった。そもそも、チャーシューの国の独立を後押ししていたのは、さつま王だった!!!!

 チャーシューの国は、その養豚技術もさる事ながら、既に国土の多くをさつま芋の栽培に充てていた。その栽培面積、さつまの国のそれに匹敵するレベルで、これを幕府でなく、さつまにマージンを納める事で取引をしていたから、さつまとチャーシューの国は、両国とも今や空前の貿易国として潤っていたのだ。

 とんこつ王子は、これを幕府に全く知られる事なく行ったのだから恐れ入る。チャーシューの国にいる役人は、既にとんこつ王子の買収工作によって、とっくの昔にチャーシューの国の言いなりへと変貌し、幕府にその動きを全く知らせる事は無かった。

 この時、さつま王と違い、チャーシュー王は息子の野心に手を貸すのみで、もはや、チャーシューの国は、実質、とんこつ王子のものと言っても過言ではなかった。とんこつ王子も齢30歳。油の乗り切った頃で、その野心を国内のみならず国外にまで向けていた。

 さつまとチャーシュー、つまり、サッチャー連合は、今や倒幕に狙いを定めて、極秘裏にメリケンとの交渉を行っていたのだ。

 これは、幕府側がエゲレスとの結びつきを強めつつあるという情報によるもので、つまり、今の日本はメリケン対エゲレスの代理戦争の舞台へと変貌しつつあった。そう!!これから戦いの火ぶたが切って落とされる!!その時はもう近いっ!!

 しかし、ここから事態は思わぬ進展を見せる。それは、いぶし銀次郎の存在!!

 とんこつ王子は、さつま芋栽培の影でさつま芋爆弾が製造されている事までは知っていたが、銀次郎のような鬼変化の効果がさつま芋にある事は、まるで知らなかった。

 鉄鋼(有)は、この事を知れただけでもラッキーだと感じた。今の状況はこうである。とんこつ王子は、王と王子の対立を知らない。だからこそ、サッチャー連合の事を自分らに話したのであり、王子の親書を快く受け取り、サッチャー連合の強化を自分らに約束したのだ。

 そして、さつま王ととんこつ王子の間の密約には「芋」が重要な役割を担っている。が、芋にまつわる鬼効果の事までは知らない。というより、それはおそらく、さつま王ですら完全には知らない事実であろう。という事は、つまり、それがさつま王子に残された唯一のカードという事だ。つまり、鬼の銀次郎がこの国の鍵を握っている。

 無論、この鬼効果の事は、さつま王子においてもまだ理屈が分かってない原理である。何故なら、あれから、銀次郎のように何人もが芋を食ってみる事を試したが、身体に何かが起こったものは皆無であり、その原理、どの芋が、どの変化をもたらすかすら全く検討がついてないからだ。

 しかも、銀次郎にその検討の協力を申し出ようにも、元より、この通り、銀次郎はわがままだ。しかも、さつま王子とは仲が悪く、協力させようにも、どうにもその術(すべ)が無かった。

 こうした事実の下に王子は、では、銀次郎を使える鉄鋼(有)と協力し、そのカードをどうやって有効に使おうかと思案した。王子は、銀次郎とチャーシューの国を通じて何を行おうとしてるのか?

 それは、現在、幕府側についているエゲレスとのアクセスである。

 王子は、今、さつま王がアクセスしているメリケンではなく、幕府と結びつきの強いエゲレスをこちら側に率いれる為にチャーシューをエゲレス派へと転換させる計画を立てていた。そして、王子がさつまの国を制覇したのち、さつまをエゲレス派へと転換させ、エゲレスサッチャー幕府連合によりメリケンを追い払おうというのが王子の真の狙いなのである。

 これは、王の倒幕論とは全く異なる、よりスケールのデカい構想ではあった。そして、その根底には、メリケンを追い払ったのち、エゲレス一国なら打ち倒せるという自信が王子の中にあったから出来る企みなのである。その根拠が「さつま芋爆弾」と「鬼の銀次郎」という事なのだ。

 この構想は、佐吉にすら話していない王子独自の構想案だった。つまり、王子は、佐吉は王に召し抱えられるかもしれないと先回りして、この構想を自分の胸にとどめておいたのである。そして、時が来た今、より自由な身分である鉄鋼(有)と虎之介、そして、当の銀次郎にのみ伝えられた秘密の作戦がスタートしたのだが・・・

 しかし、この作戦は、王の早い手によって、今まさにそれが封じられてしまっている事が明らかになったのである。サッチャー連合はとっくの昔になされ、その結びつきは既に強固なものですらあったのだ。げに恐ろしきは、さつま王。というより、実は、さつま王もまた似たような構想をもっとスケールでかく、裏の作戦として遂行していたのである。それは何か?

 それは、サッチャー幕府連合による、エゲレスvsメリケンの均衡状態の創出である。どういう事か?

 近年、急激に仲の悪そうに見えた幕府とさつま。この二カ国は、実はトップ同士では、未だその関係を保っていて、その政策を密に連絡し合っていたのだ。幕府の実質トップである、きゅうり大老こそは、メリケンとさつまを結びつけ、さつま芋の栽培をさつまに許可し続けた裏の仕掛人であり、王と依然として仲良くしながら、世を動かしていたのである。

 つまり、チャーシューの国は、さつま王の計らいでさつまと手を結びついたように思っているが、その裏で幕府とも手を結んでいる事になっていた。これにより、チャーシューは幕府からは野放しになっているように見えて、実は、さつまを通じて、その手綱(たづな)を幕府に握られていたのだ。

 もちろん、さつま王も、とんこつ王子も、そう一筋縄ではいかない人間であるから、事はそう単純に運ぶわけでもないのだが、いずれにしても、こうして、幕府、さつま、チャーシューの最大の切れ者たちがそれぞれの思惑で入り組む事によって、これらの連携がエゲレスとメリケンの見事な均衡状態を引き出し、戦争を回避していたのだ。

 しかし、これはこれで危険なやり方であろう。エゲレスもまた、この均衡状態に業を煮やし、メリケンとの交渉を遂に開始するに至ったからである。これが歴史に名高い「テリーとポール。はじめての会談」である。ここから時代は更に激動の時代へと突入していく事になる。

 テリーとポールが一体なにを話したか?今の段階では、それは定かではない。しかし、分かるのは、この時を境に諸藩の動きが活発になったという事である。

 エゲレスやメリケンの軍備がいかに強大だったと言えども、所詮、日本まで来られる船の数は、数隻から数十隻程度のもの。しかも、現場のトップであるテリーやポールも大統領とは程遠い一介の軍人なのだから、独断で出来る事はたかが知れているわけで、結局、彼らは日本全土を敵に回せるはずもない。

 この事により、時の将軍・いえ~い!は、異国に対してたかを括ってしまい、異国の力を過小評価してしまった面がある。これを、逆にきゅうり大老は利用して、いえ~い!に異国など恐るるに足らず!沖に船を浮かべてるだけでござる!と戦争を回避してきたのだ。

 しかし、そこでエゲレスとメリケンが手を結ぶならば、話は別だろう。二つの軍勢を相手にすれば、流石に幕府も分が悪い。

 元々、尊大だが小心である、いえ~い!は、このテリーとポールがメリケンの黒船の上で会談したという、その事実だけで、にわかに浮き足立ってしまっていた。何故なら、この2人は大統領の許可なく、現場の判断で会えるはずがない2人が会っているからである。しかも、あろう事か、きゅうり大老そっちのけで、いえ~い!にすり寄った一派が独断でフレンチとの密約を進め、それに、いえ~い!は、お墨付きを与えてしまったのである。

 これにより、幕府は揺れた。その揺れは、思いのほか、大揺れで、幕府という統治機構は、これにより大きな亀裂をもって崩壊を迎える予感すら漂って来たのだ。

 この機を逃さず、倒幕の旗を高らかに掲げたのが、とんこつ王子であった!!

 とんこつ王子は、その脇に鬼のような少年を引き連れて、このあと驚くべき快進撃を続けて、幕府を窮地に陥れる!!てか、鬼のような少年って!!???ええええええ!!?まさかっ!!!??


 激動の時代は更に続く!!!きゅうり大老が暗殺された!!!


 暗殺を主導した人物は全くの不明である。一説には、エゲレスが手を回したともフレンチが手を回したとも噂されているが、それも定かではない。

 これに快哉を挙げたのは、とんこつ王子である。皮肉なもので、とんこつ王子は、さつまと幕府の結びつきなど知らず、幕府は敵だとしか見ていなかったから、これを機に一気に倒幕の意をさつま王に持ちかけ加勢に出た!!

 幕府とのパイプをきゅうり大老に大きく委ねていたさつま王は、今の状況下では、サッチャー連合を最優先に考えるのが得策と判断し、しぶしぶ、とんこつ王子の要請に応える。無論、自身が前線に出ていくことはないものの、とんこつ王子と同等の立場の者を、とんこつ王子の下に、つまり、さつま王子を戦線に送る事を決意したのだ。ここで急転直下!!遂に、さつま王子の出番である!!

 これを今か今かと待ち望んでいた王子は、雲助や馴染みの兵隊、幽閉されていた、さくらじま先生とその門弟の有能な者たちを引き連れて、意気揚々と軍艦に乗り、さつまの港を出港した。

 今まさに時代は、とんこつ王子のものへと風向きが変わりつつある中、しかし、その事によって、再び息を吹き返したのが、さつま王子である。時代は、この時、とんこつ王子のみならず、さつま王子にも味方し、このうねりを王もしぶしぶ後押しせざるを得ない状況で、2人の独走を許す事になったのだ。

 それともう一人。

 いぶし銀次郎!!

 この幕府との戦の中、チャーシュー藩の王子・とんこつの側にいつもあったのが鬼のような形相の少年、いぶし銀次郎であった。その力、どんな大筒よりも強く、目からビームを発射し、どんな戦線でも最も目立った働きをして、幕府のみならず異国の者たちすら恐れおののく存在になっていた。

 この銀次郎を懐刀に抱えて波に乗っていたとんこつ王子であったが、元々は、銀次郎は、さつま王子の手で送り込まれた者。その事を、佐吉が王に耳打ちした事によって、王は王子をその下へ送り込む事を決めた所もあったのだ。それは、言うまでもなく、少なくとも、銀次郎だけは我が軍に引き入れられる目論見。王と王子は感情的には対立するものがないでもなかったが、しかし、元より同じ国の人間、そして、親子、使えるとあらば、それは仕方なく、王は、またしても、王子を野に放つ事になったのである。

 これにより、王子はまた羽を伸ばす。そして、その伸ばした羽は行き先を大きく変え、戦線ではなく、メリケンの船の横に自分の軍艦をぴたりと着けた。そして、そこに着くや否や、メリケンの船のその上空にやおら大筒をぶっ放す。


 どごおおおおおおおおんんん!!!!!!!!


 驚くべき轟音!!雲助の放ったその大筒の音は通常考えられない音を立てて、上空で破裂した。


 そう!!これぞ正にスーパーさつま芋爆弾の威力!!!これを持って、王子はメリケンを成敗し、とんこつ王子の時代を更に進ませて、さつま王子の時代を創ろうとしていたのだっ!!!

 しかし、メリケンにぶっ放したのは、戦争の合図とはならなかった!!

 スーパーさつま芋爆弾の威力を垣間みたメリケンの船乗りたちは、それを見て拍手喝采を巻き起こしたからだ。いや、何で?まじで?なんで?

 何故なら、その船乗りたちの中には、一人のさつま人が紛れ込んでいたからだ!!そう!!その男の名は・・・

 SA・KIぃー・CHIー!!


 「うおおおお!!!佐吉だぁーーー!!!」

 さつま王は、戦線にさつま王子を送り込む前にメリケンとの関係を強化すべく佐吉をメリケンの船に送り込んでいた。これに驚く、さつま王子。佐吉は、王子に先回りして、メリケンとの交渉事として、スーパーさつま芋爆弾の存在をメリケンに知らしめ、その取引によって、さつまの存在を優位にしようと既に交渉を成立させていたのだ。そして、この再会!!


 「さきちーーーーー!!!」


 「王子ーーーーーー!!!」


 王の思惑もつゆ知らず、自らの意思でメリケンとの戦に向かった王子は、王の先手に唸るもこの再会を心の底から喜び、王の粋なはからいに今日ばかりは負けたとメリケンと一戦も交えずに、メリケンに対して優位な交渉を締結させる事に成功した。

 交渉の内容はこうである。メリケンは、さつまの後ろ盾をし、幕府を撃つ!!

 しかも、それだけではなく、極秘の内容だが、この中には、場合によってチャーシューへの攻撃も持さない事が記されていた。そして、さつまは、メリケンの世界戦略の為の武器庫として、大量のメリケン人を受け入れ、日本を世界最大のさつま芋産業国へと変貌させ、メリケンの世界制覇の後押しをしようとしていたのだ。

 げに恐ろしき、さつま王の交渉術。

 これにより、さつまは諸藩に先駆け、幕府を無視した完全開国が決定的になった。ここまでの事は、王と王子と思惑が一致し、さつまの国が日本の中で完全にイニシアティヴを取ったという事が言えるだろう。しかし、問題はここからである!!!

 強大な敵を前にして、ある意味では、王と和解する事も持さなくなった王子の心持ちは、これにより、一気に王とともにさつまを倒幕の方向へと向かわせる事になる・・・はずだったが、そんな事はなかった・・・何故なら、このあと・・・・・


 とんこつ王子、死す!!!!!!


 倒幕の機運が盛り上がり、いよいよ本格的な幕府征伐に乗り出そうとする最中、その渦中の最重要人物、とんこつ王子が博多の船宿で殺されたのだ。

 殺したのは、キューリー少年。きゅうり大老の遠縁でエゲレス人とのハーフであるその人物は、さつま王が加勢に送り込んだ軍勢に混じっていた一人であり、さつま王が秘密裏に送り込んだ、とんこつ王子への刺客である。

 この事を知ってるのは、さつま王とキューリー少年本人のみであり、少年を引き連れて戦っていたいぶし鉄鋼(有)などもさつま王のその思惑に「やられた!」と動揺するより無かった。

 しかし、どうだろう?今節の戦で名を挙げたのは、とんこつ王子ともう一人いたではないか!?そう!目からビームを放つ男!誰あろう、いぶし銀次郎が!!!!

 そもそものところ、むしろ、快進撃の中心にいたのは、きゅうり大老の暗殺を契機に名を挙げたとんこつ王子より、常に先陣を切って他を圧倒してきた、いぶし銀次郎だった。

 それ故、とんこつ王子亡き今、チャーシューの軍勢すら、いぶし親子を裏切り者とは見なさず、このまま銀次郎を旗頭(はたがしら)に倒幕を続けようぞ!!という機運を続けつつあった。ここに来て、時代は一気に大戦乱の世に突き進む様相を呈してきた。戦争だ!いよいよ本格的な戦争だ!!!!!!!


 しかし、そうは問屋が卸さない!!!ここで倒幕、何するものぞ!と出て来たのがメリケンを引き連れて戦場にやってきたさつま王子だっ!!!間に合った!!!戦争はいかん!!!!!全ては戦を止めるために!!!さつま王子は、最後の決定を皆に告げるっ!!!


 「みんなー!!戦はおわりじゃーーん!!そこにいるキューリー少年!!コイツが今から幕府の将軍になるじゃんっ!!エゲレスとメリケンがそう決めたじゃん!!いえ~い!将軍いえ~い!の世はもう終わりだぜっ!!これからは、キューリー少年の幕府とサッチャーが両雄並び立ち、この国を統べる事になるっ!!これにより、北はエゲレス大工場地帯(幕府中心)!!南はメリケン大農場地帯(サッチャー中心)!!に分かれる事になる。これがテリーとポールの会談によって決まった日本を分割統治しようという衝撃の合意なのさっ!!なので、もう、どっちにしても僕らの負けじゃん!幕府も藩もないじゃん!!みんな、もうじたばたしてもしょーがないじゃん!!これからは異国を受け入れて、みんな仲良くやっていくしかないじゃん!!わかったー?やっほーーーい!!」

 さ・・・さつま王子は、やはり、バカなのか!?アホなのか!??何で、そんな屈辱的な内容をたのしそうに言ってるんだ?・・・・・・と戦場にいる数多の武士たちが、そう頭を混乱させ、戸惑っていた。そして、そんな中、いぶし銀次郎は、ホントにバカなので、こう言い放った!

 「やいやいやい!!!クソ王子いいいいい!!!何えらそうな事言ってんだああああ!!アホなこと言ってっと、ぶっ飛ばすぞおおおお!!こらあああああ!!!!!」

 と、そう叫ぶ銀次郎を見て、にわかに場が沸き立った矢先、銀次郎の腹を鉄鋼(有)がぶん殴り、事態は収まった。鉄鋼(有)と虎之介は静まった銀次郎を抱え、佐吉の待つ手漕ぎボートに乗り込み、王子の元へと駆け寄る。それを見て、呆然とするチャーシューの武士たち。そこに大砲をぶっ放すメリケン人たち。え!?ぶっ放す!!??

 どっかああああああんんん!!!

 メリケン人は、敵であるチャーシューの志士たちを強大な威力の大砲で次々と撃って行った!!その様、容赦なし!!!あっという間に戦線は終結。チャーシューの大半の志士たちは虐殺され、日本は異国の力をまざまざと見せつけられたのである・・・これが世に言う「博多とんこつ地獄の変」である!!!


 「ええっ?うそー!!話が違うじゃん!!」


 この事は、さつま王子には何も知らされてなかった。

 この時、恐るべき事に、この異国による虐殺の中、戦で殺された、さつま人はゼロである。つまり、これは、さつま王とメリケンとの裏取引。さつま爆弾を渡す事によって完全にメリケンを味方に引き入れて、この戦争で完全に日本を我がものとして制圧する事を画策したのは、さつま王だったのだ。

 こうして、メリケン側で共に並ぶはずだったチャーシューはボロボロとなり、国は割れた。そして、幕府を頂点とするエゲレス側のキューリー少年もそもそも、さつま王の子飼いの者であった。要するに、そう!!


 さつま is JAPAN!!!!!!!


 恐るべき事に、異国の傀儡となる事を引き換えに、この日、さつまは、幕府を超える独立国として日本に君臨する事になったのである。この日より、さつまは、メリケン、エゲレス、フレンチなどと渡り合う日本最大の国となった!!!しかし、このままでは単なる異国の傀儡政権!!!これを、さつま王はどう切り抜けるのか!?・・・このまま単なる裏切り者として終わるのか!?さつま王の明日はどうなる!!?そして、さつま王子は!!??この日本の行く末は!!?


 ◇◇◇


 ざざー ざざー


 あれから幾ばくかの時が経ち、遠く沖合にメリケンの艦隊を眺めながら、さつま王子、どれみ、銀次郎の3人が、さつまの浜辺にぽつりと立っていた。

 今や、時の人となった、さつま王子といぶし銀次郎。この2人は未だ仲が良いわけではないが、何故かお互い惹かれ合うものを感じていた・・・・・


 「よう。いも王子。どれみに免じて、来てやったぜ。用って何だよ?早く言えよ。」

 「まあ、とりあえず芋食えばいいじゃん。あま~いあま~い焼き芋だよ。ほっかほかだよ。」

 「わあ。いただきまーす!」と嬉しそうにぱくつく、どれみ。それを横目に

 「おいおいおい。また変な事になんじゃねえだろうな?大丈夫か?どれみ。」

 と訝(いぶか)しむ銀次郎。

 「今度は平気じゃん。これは普通の焼き芋だし。めっちゃおいしいから食べてみればいいじゃん!」

 と言って、ぱくっと、手に持ったあつあつの焼き芋をぱくつく、さつま王子。

 その、どれみと王子の余りにもおいしそうな顔に銀次郎もいても立ってもいられなくなり、近くで落ち葉焼きしている焼き芋を拾って、いそいそと銀次郎もさつま芋をぱくつくのであった・・・

 「う、うめええ!!!」

 「うまいだろ。これが、さつまの焼き芋じゃん!!」

 「うん。おいしい!!」

 とにこにこするどれみ。しかし、その姿を横目に、銀次郎はまだ煮え切らない想いを胸に抱えていた・・・

 「おい!いも王子。このさつま芋はうまいけど、オレはお前を許したわけじゃないからな。父ちゃんの米のがもっと美味かったんだからな!!お前はぜってー許さねえからな!!」

 「兄ちゃん!」

 「良いんじゃん、どれみちゃん。それもまた真実じゃん。ボクはそういう事をしてしまったんだから、しょーがないじゃん。」

 「でも・・・・」

 「ホントに良いんじゃん、どれみちゃん。それより最後にみんなで、あの唄を一緒に唄おうじゃん。あの時の河原での唄。それを一緒に唄いたいじゃん。今日、呼んだのはそれだけの話じゃん。」

 「そんだけかよ!誰が唄うか!ばーか!!」

 「ていうか、王子さん。最後って何?何のこと?」

 「うん。ボクは一度メリケンに行く事になったじゃん。メリケンに行って、色々な事を学んで来るじゃん。だから、今日でみんなとはお別れじゃん・・・」

 「へえええ!!いも王子、この国からいなくなりやがるのか!!へへへ!!せいせいするぜ!!二度と帰ってくんな!!芋と一緒に異国でくたばりやがれ!!ざまあみろ!!」

 と言う言葉とはうらはらに銀次郎の顔は明らかにひきつっていた。それを見て一同しんみりして言葉が途切れる・・・

 少しの静寂が続いたあと、思い切って、どれみが「あの唄」を唄い出した。

 ららら~♪

 続けざまに、唄い出すさつま王子。最後に銀次郎もしょーがなく唄い出した・・・ら・・・

 「う、うめええええええ!何それ?銀次郎って、そんな唄うまかったの!!?全然しらなかったじゃん!!」

 「知らねーだろ。実はうめえんだよ。能ある鷹は爪隠すってな。最後だから真面目に唄ってやったぜ!」

 「そうだよ!!兄ちゃんは、お唄の天才なの!!だから、お唄がすごい上手なんだよ!!」

 「へええええ。意外じゃん!!」

 「へへへ。どうだ?いも王子。ケンカでも唄でも全てにおいてオレの勝ちだな。まあ、おまえもせいぜい、メリケンに行って、あちらの唄でも修行をしてきたまえ。ま、帰ってこなくてもいいけどな!!」

 「ああ、そうするじゃん!いずれ帰ってくるじゃん!!でも、最後に良いもん聴けてよかったじゃん!じゃあ、みんな!!後は、さつまの事は頼んだじゃん!!」

 「おお!任しとけ!!オレのこのビームがある限り、さつまの国はこれから安泰さ!!」

 「・・・あ。それなんだけど、それ多分もうすぐ消えるじゃん。芋の効果、そんな続かないはずだし・・・」

 「え?そうなの?」

 「うん。たぶん・・・」

 「え。兄ちゃん、よかったじゃん。ずっと鬼だったらイヤだもんね!」

 「そ、そうだな・・・。よかったよかった。そもそもオレは父ちゃんのあとを継いで、立派な肩当て職人になるんだからな。もう目からビームなんていらねえ!もう戦争は懲り懲りだぜ!!」

 「そう!こりごりこりごりー!!」

 「そうじゃん!もう戦争はイヤじゃん!だから、僕は向こうで頑張って来るじゃん!!みんな戦争の無い世の中の為に頑張ろうじゃん!!」

 「おお!!!」

 「(・・・・って、なんで。オレ、いも王子なんかと意気投合してんだろ。ついつい乗せられちまったぜ・・・)」


 こうして、少年さつま王子といぶし銀次郎の物語はひとまずは終わりを迎えたのであった。しかし、これはほんの一先ず。

 このあと、日本は、さつまが全土を支配するという事には相成らず、子飼いに思っていたキューリー少年はなかなかの曲者として立ち回り、北日本の全土はエゲレスの属国として幕府が立ち直り、南は、さつまを中心にメリケンの支配が完全に行き届き、列島は本格的に北のエゲレスと南のメリケンの支配地として分断される事になった。

 戦争が懲り懲りと言いつつ、そもそも戦争が集結する見込みは全くなく、無論、この時、さつま王子にもそれは分かっていた。というより、そもそも、王子がメリケンに行くのも半ば人質に過ぎなかった・・・そして、銀次郎も倒幕の首謀者として、このあと幕府から命を狙われ、鬼の力も失った銀次郎は逃げるようにその姿を隠し、歴史の表舞台から完全に消える事になる・・・


 こうして、この幕末の動乱はかくも厳しく二人の少年の前に立ちはだかり、また逆に言えば、その事でこの世に二人のヒーローを誕生させる事が出来たと言う事も出来るだろう。

 さつま王子といぶし銀次郎。それはまだまだ続く物語・・・そして、それは同時にこの日本の、幕末の、激動の物語と軌を一にする物語でもあった・・・

 さつま王子、現在12歳。いぶし銀次郎、現在12歳。時代を動かすには、まだまだ早い年齢の子の若者たちの物語は、大人になって、本格的な動乱の中心に巻き込まれていく事になるのであった・・・


 to be continued... 第二章はあるのかっ!?


(これにて、第一部は終わりです。この物語は、「伝説の三匹」という3人で多分10年ぐらい前に考えたもので、全3部あって、話の骨子はすでにできているのですが、小説は一部のみで終わったままという状態です。小説も最初に書いたのは10年前ぐらいな気がしますが、今回、結構、リライトして掲載してみました。こんな感じで頭の隅では続きを書こう書こうと思いつつ、もはや10年近い月日が経ってしまっているのですが、今回、こちらに再掲する事によって、もう一回物語が動き出した感があるので、なんとか続きが書けるといいなーと思っています。書けなかったら、すいません。きゅうり大老を暗殺したのがだれなのかとかは、多分、第二部で明らかになるような気がしますが、あんまり記憶にないので、単に今回、書き忘れだったのかもしれません。ちなみに、第二部の主役は銀次郎です。ひとまず、今回はこれで最後という事で、読んで頂いた方はありがとうございました!)


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