見出し画像

なぜ、不動産のキャッチコピーは今でも「日当たり良好」なのか?

世紀の名コピー「日当たり良好角部屋」

大昔、「日当たり良好!」なんて漫画がありましたね(知らないよね)。不動産の名キャッチコピーとして、ひょっとしたら1世紀ぐらいつかわれているのではないでしょうか。
不動産物件のキャッチコピーは、こうした定番の名コピーのほかにも「詳しくは信頼と実績の○○不動産へお問い合わせください」とか、定型文のコピペ・使い回しが多くみられます。

でも、住居って、売買なら数千万円、賃貸でも更新までの2年住むなら軽く100万円前後にはなりうる、けっして安くない買い物ですよね。それを売る言葉として「日当たり良好角部屋」でほんとうにいいの?が、広告業界から来た人間の素朴な疑問でした。

レガシー広告代理店が不動産物件広告を苦手とするワケ

前職の広告会社は総合代理店だったので、およそ20年もいれば扱わない業種はないというぐらいほとんどの産業の広告案件を扱いました。薬、クルマ、タバコ、タイヤ、電気、ベビーカー、ビール、コーヒー、キャンディ、お茶、シャンプー、オフィス用品、唐揚げチェーン、ハンバーガーチェーン、、、まあ、なんでもです。但し不動産物件以外は。

広告代理店にも、不動産の案件はあります。いわゆる「マンションポエム」といわれる新築マンションの広告や、大規模開発案件などは、大手広告代理店でも専門チームがあたっていたりします。ただ、不動産の世界では、これはデベロッパーという、不動産というより建設会社寄りの話で、いわゆる「物件」を扱う不動産流通の世界とは異なる限られた分野です。で、この「物件」の流通広告だけは、いわゆる総合広告代理店ではやっていません。というか、できないと思います。

理由は簡単、不動産は総合広告代理店が得意とするマス型商品ではなく、パーソナル商品だからです。

総合広告代理店の扱う商品の多くは、たとえば一本120円のペットボトルのお茶を3週間で2,000万本とか売るビジネス、つまり「マスビジネス」です。一方、不動産物件は、売る商品が一戸一戸、全部違います。同じマンションでも、203号室と301号室が全く同一であることはありえません。一発で2,000万人に売る散弾銃のようなマスマーケティング戦略は、1戸づつ成約させていくパーソナルなマーケティングには通用しない。なので、あらゆる商材を手掛けている広告業界のマーケターですら歯が立たない、これがまさに不動産物件のマーケティングなのです。

不動産営業マン1人=総合広告代理店のアカウントチーム

ところが、優秀な不動産営業マンがやっていることをよく見ると、その思考回路や行動は、総合広告代理店のアカウントチーム(特定のクライアントを担当する専門チーム)がやっていることとよく似ています。

優秀な不動産営業マンは、経験と知識という脳のデータベースと売りたい物件を突き合わせ、その物件の強みをパッと見極めます(競合比較分析)。そして、その強みを、目の前のお客さんごとに語り分けることができます。たとえば、おなかの大きな奥さんが相手なら、和室でおむつが替えられることを言うかもしれないし、やんちゃそうな男の子の手をひいていたら、玄関からお風呂場が近いから、泥んこで帰っても大丈夫だと言うかもしれません(ユーザーインサイト抽出)。ツカミになるキャッチコピーや説得の殺し文句も繰り出しますし(コピーライティング)、誰に勧めればよいかを見極め、推奨メールを出したり、LINEを送ったり、検索広告を買ったり出稿したりと、適切なメディア選定も1人でこなします(メディアプラン)。

120円の緑茶の殺し文句とと3,000万円の物件の殺し文句

問題は、そんなことができるスーパー営業マンはほんの一握りで、多くはやはり「日当たり良好角部屋」な感じになってしまっている点です。

実際、一本120円の緑茶のマーケティングには、統計を扱え分析力に長けたマーケターと、膨大な語彙を武器に表現を繰り出すクリエイター、媒体特性にあわせメディアミックスを組み立てられるアカウントプランナーが、数ヶ月をかけて知恵と言葉を練ってチーム作業をします。一方、3,000万円の物件のマーケティングを担うのは営業マン1人で、当然経験や能力にもばらつきもあります。
まあ、かけられるコストが違うからしょうがないといえばしょうがない。

それでもやはり、「3,000万円を売ろうとする殺し文句がこれかい。。」ということで、ならばAIの力で、デキる営業マンの代行をできないだろうか?というのが今取り組んでいる「不動産説得ロボット」です。このお話はまた別な機会に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?