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【短編】第六波は止められない

森永雪見は内股で小走りに走っていた。
ダッシュで走りたいけれど、全力疾走はとても無理だ。
もう何度目の波動だろう。
地獄のような第三派までは覚えている。
その後、意識は朦朧として、ハッキリとは覚えていない。
昨夜のレバーがダメだったのか。
メニューには新鮮レバーとあって、ごま油と一緒に出されたら、焼かなくても良いレバーだと思うではないか。
お店の人はしっかり焼いてくださいと言ってたけれど...。
肛門括約筋も限界に差し掛かっている。
よし、もう少しで公園内の公衆トイレだ。
ギュルギュルギュルーッとお腹が鳴る。
記憶が確かなら多分、次が第六波だ。これが限界だ。急がなければ......

雪見はようやく公衆トイレに着くと、ガチャッと勢いよくドアを開け、パンティを下ろした。
ブリブリブリーッ!

間に合った!
はぁ、なんて幸せなんだろう。
こんな絶頂感って他にないよね♪と雪見が恍惚の表情を浮かべた刹那、
パシャ!
という音ともに、和式便器の下からフラッシュが光った。

雪見が便器の中を覗くと、便槽の暗闇の中で誰かがスマホをかざしていた。

「キャーッ!」

暫くするとトイレのドアが開けられた。
雪見の目の前には、胴付長靴を履いた鳥野白湯(パイタン)が立っていた。
元々グレーの胴付長靴は、腰の辺りまでブラウン色に染まっていた。

「誰かと思えば雪見ではないか。胸だけでなく、お尻も天下一品の美しさだな!俺の館へ連れて行く」
パイタンはそうゆうと雪見を小脇に抱えた。
背中から手羽先のようなウイングを出し、勢いよく羽ばたき、空へと舞い上がった。

空に舞い上がっても雪見の第六波は止められない。ビチュビチュ、ビチュビチュっとブラウン色の液体が漏れる。
パイタンの胴付長靴からもブラウン色の液体が垂れている。
まるで農薬の空中散布のようだ。


◇◇◇


姫野 一(ハジメ)はほんわか商店街を歩いていた。トリスと渡も一緒だ。
この残暑だ。ハジメの黒いTシャツは汗による塩で白くなっている。

「最近思うんですけどね、俺達って誰かに踊らされてるだけなのかなって。毎日ラーメン屋でくたくたになって働いて、それでグッタリと眠りについて一日が終わっていくけど、何かこう得体の知れない大きな物に、ただ踊らされてるだけじゃないかって」

「そんなこと考えたこともなかったわ」とトリスは首を傾げる。

「そうだよ。考えすぎだよ」と渡も続く。

ポタンッ!

ハジメの頭に何か落ちた。
ブラウン色の液体だ。

ハジメが上空を見上げてると、鳥野パイタンが雪見を抱えながら空を飛んでいるではないか。

「あっ、あれは...。雪見ちゃんだ。パイタンの野郎、やりたい放題やりやがって!もう許さないぞ!」
とハジメが空を指差した。

「あの方角は、カリスカトロの塔の方向ね!追いかけましょう!」とトリスが駆け出す。

「雪見ちゃん、俺たちが今助けに行く!」
渡も後に続いた。

ポタンッ!

走り始めたハジメの頭にまたブラウン色の液体が落ちた。その液体の中には鮮やかな黄色のコーンが混じっていた。


(ぱひゅん)


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