【短編】瑠璃色のミーニャ
剛は自分の不甲斐なさを悔やんでいた。
優柔不断で物事が決められず未だに独身生活だ。
これまで結婚する機会が無かった訳ではない。寸前まで進展した話もあった。
そんなことを考えながら商店街を歩いていた。
ワーッ!
突然、剛が穴に落ちた。
「誰だよ、こんなところに落とし穴を作った奴は...」
剛が見上げてると2mくらい上に穴の入り口があった。
その穴の淵から瑠璃色の猫がこちらを覗いている。
「僕はミーニャ。この穴に一度落ちたら二度と上がって来れないよ」
「どうして?」
「そこはもうこの世ではないからさ。君の後ろにもう一つ穴が空いてるだろ。それがあの世の入り口さ」
剛が振り向くと、そこには大きくて真っ暗な穴があった。
「君は何も悪くないよ。優柔不断じゃなくて物事を深く考えるタイプなんだ。あの時の婚約話もプロポーズさえしていれば、結婚して幸せな暮らしができていたのに」
「もっ」
何か言いたそうだ。
「もっと、早く言ってよ」
そういうと、剛は背後にあったもう一つの穴に飛び降りた。
◇◇
街はクリスマスモード一色で、商店街にはワムのラストクリスマスが流れている。
雪が散らつきだした。
雪景色には不釣り合いな、真っ黒なカラスが鳴いた。
カ〜ッ♪
「父ちゃん、見て。電線にカラスが止まってるよ」
「カラス?そんなヤツはどうでもいい。
いいか、このエコバッグ一杯にあの店の商品を詰め込んでこい。
お前の好きなコマのオモチャだ。転売すれば高く売れる。好きなだけ取ってこい」
「今日もやるの?ボクもうイヤだよ」
「大丈夫だ!父ちゃんが店主と話してる間にやるんだ。
まさか5歳児の子供が万引きするとは誰も思わないからな。
成功すればうどんに、お前の好きなお稲荷さんを付けてやるよ。
さあ、行くんだ。その顔を上げて」
「ボクもうイヤだー!」とうとう子供が泣き出した。
その時、上空からカラスが急降下してきた。
羽根を十字にクロスし、父ちゃんに突撃する。
「愛ゆえにカラスは苦しみ、愛ゆえにカラスは悲しむ!」
プシュ〜!
父ちゃんの脳天は割れ、脳みそが飛び出した。
毛繕いをしながら、その一部始終をミーニャは眺めていた。
◇◇
商店街には達郎のクリスマスイブが流れていた。
一人の子供が肩を落としたまま、その商店街を歩く。
わーっ!
突然、穴に落っこちた。
上を見上げると2m位ある落とし穴だ。
穴の淵から瑠璃色の猫が顔を出し、子供に話し掛けた。
「この穴に落ちたら二度と上がって来れないよ」
ウェ〜ン!子供が泣き出した。
「世界中で唯一、君を一番愛している者でないと、この穴から君を引き上げることは出来ないんだ」
ウェ〜ン!オェ〜ン!
身寄りがないのだろうか、猫の言葉を聞き、子供は更に大泣きしている。
「泣いても何も解決しないよ。君の後ろにあるもう一つの穴に入れば別世界が待っている。
今より楽になれるよ」
その時、穴からグイッと一本の腕が差し伸べられた。
子供はその腕に飛び付き、穴の淵まで引き上げられた。
腕を出した男が問いかける。
「俺の名前を言ってみろ」
「と、父ちゃん!」
父ちゃんと呼ばれたその男の脳天には、鳥にでも突かれたのだろうか、十字の絆創膏が貼られていた。
◇◇
父と子が抱き合う姿を横目に、瑠璃色のミーニャが穴に飛び降りた。
そこからもう一段、深い穴に瑠璃色のシッポを垂れる。
暫くすると、シッポを伝い這い上がってきた男が顔を出した。剛だ。
ミーニャが言う。
「こんなところで今更、短絡的になってどうするのさ。悲しみを知らない男に勝利はないよ」
「ホントだね。これからのことを、じっくり考えてみるよ。僕は雲、僕は僕の意志で動くよ」
剛は、はにかみながら微笑んだ。
「メリークリスマス!」
(おしまい)
えっ!ホントに😲 ありがとうございます!🤗