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【連載】茶谷夫人の恋人①

 茶谷 麗チャタニレイは未亡人である。
 夫が亡くなり既に十年が経つ45歳だ。
 夫が残した豪邸のルーフバルコニーから今日も庭園を眺める。
 季節外れの大雨の中、池の鯉が泳いでいるのを見つめながら、ただぼんやりとこれまでの人生を振り返える。
 夫とお見合いで結婚したのが25才。それまで男の人と付き合った経験もなく、夫とは喧嘩一つなく仲良く暮らしていたけれど、夫が交通事故に遭い、突然35才で死別した。
 残念ながら子供は授からず、一人暮らしでもう十年が経った。この十年は男の人とお話しした記憶さえない。
 女盛りって、一体いくつなんだろう。
 気づけば、知らぬ間に40代半ば。最近、妙に身体が疼くの。

 池の淵に見知らぬ男が立っていた。
驚いた麗は、不法侵入で警察に連絡することを考えたが、更に驚いたことには、無意識にその男に声を掛けていた。
「まあ、びしょ濡れじゃないですか。さあ、お家にお上がりなさい」

◇◇

カランカラン♪
「すみません、三日三晩、飲まず食わずでして。お邪魔します」
 玄関のドアを開け、ドロドロの汚い衣類を身につけた見知らぬ男が入ってきた。
「遠慮しないで、こちらにいらっしゃい」
 風呂にも数日入っていないのだろう。体臭が匂う。見た目は、まだ20代後半だろうか。

 男が問いかける。
「僕みたいのがお邪魔して、家の人に迷惑をかけないでしょうか」

「大丈夫よ。この家には私しかいないの」

「こんな豪邸に一人暮らしですか。
 円安を追い風にして、アメリカで成功した寿司職人かっ!」

「うふふ、長いツッコミもできるのね。気に入ったわ!お腹も空いてるでしょうが、身体がドロドロに汚れているから、先ずはお風呂に入りなさい。お湯は張ってあるわ」
 麗は笑いながら、大理石の廊下の突き当たりにある大浴場を指差した。

◇◇

 男が浴場に入った。
「バスタオル、置いとくわね」
 麗はそう言いながら、そっと浴場を覗く。
 シャワーを浴びている男の後ろ姿が見えた。
 中肉中背のその男の背筋は、逆三角形に盛り上がっていた。
ゴクンッ♪
 生唾を飲み込むのは男の特権ではないと、この時、麗は思った。
 小さなお尻は引き締まり、筋肉が盛り上がっている。麗は少しよろめいた。
コトンッ♪
 よろめいた拍子に、近くに置いていた石鹸を落としてしまった。

 男が振り返った。
 浴場の窓から差す僅かばかりの光を背にして、真っ裸の男が正対して、麗と向き合った。

(つづく)

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