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散歩 ~人の風景について~

広々とした玄関に腰を下ろす
靴べらを使い靴を履く。
靴紐を結ぶ。
少し長めの散歩をしようと思うから、きっちり結んだ。
先日のパーティーの時にプレゼントで貰ったルイヴィトンの靴だ。
今時のデザインなのか靴底が厚くクッション性が高く、履き心地に優れておまけに身長も高く見えるという。
世の中ではシークレットシューズとも言うらしい。
丁度、この頃散歩を習慣に取り入れていると話していた友人からの贈り物だった。デキるやつだ。
パーティーの時にはプレゼントを贈り合う事はよくあるのだが、中身に至っては十人十色だ。
プレゼントは貰って悪い気は全くしないのだが
やはり好みの物だと嬉しい。
この友人はそれをよく理解しているのだろう。
普段の会話から、僕の生活をよく想像してパーティーに参加してくれた時には
家にある家具や物をよく観察しているのだろう。
決して欲しい物をストレートに聞いてくるわけではなく、何気ない会話や観察から欲しい物を汲み取ってくれている。
更に友人は愛する妻への贈り物までくれた。
自分が大切にしている人への贈り物。
これもまた嬉しいものだ。
想像を越えた素敵な贈り物は幾つになっても胸が高鳴る。
そんな事を考えながら、ゆっくりと立ち上がり
玄関の扉を開ける。

ひんやりとした玄関を暖めるかの様に
すーっと心地いい風が入ってくる。

いい朝だ。

一度、天を仰ぐように大きく深呼吸をする。

真上の空は真っ青な色をして、遠くの方にはうっすらと白い雲が見える。

全身で1日の始まりを感じる事ができる。

これも朝の散歩の醍醐味だ。

庭に敷かれた芝の上を歩き
庭の門扉を開けて道路にでる。
軽く体操をして下り坂に向かって歩き始める。

遠くを見ると壮観な景色が広がる
ここは神戸から大阪の街並みを一望できる。

下に見える神戸の街中はオフィス街も多く
朝早くから忙しなく街は動き出す。
山手から見える穏やかな光景とは正反対だ。

街並みの向こうには大阪湾が綺麗な曲線を描いている。
近くで見ると結して綺麗な海ではないが、こうして
遠くから見ると綺麗に見える事もある。

控えめな口笛を吹きながら坂を下っていく。
ぽつぽつと散歩をする人の姿が見える。

この辺りの人は一般的にいう成功者の街だ。

いわゆる、時間とお金の概念から限りなく解放された人達だ。

挨拶をするとみな笑顔で挨拶を返してくれる。
他愛ない世間話を交わす余裕すらある。
お金と時間のゆとりは心のゆとりでもあるのか。

もう少し街並みを下っていくと
ある程度の地位を築き、お金には困らない人達が生活している。

朝は忙しそうにスーツを着て出ていく人が多い。
お金は手に入れたのだろうが、朝は時間に追われているようだ。
挨拶をすると返してはくれるが、世間話をしようという余裕はない。
時間に追われるのはお金を手に入れた代償だろうか。

更に街並みを下っていき平地まで降りると
慌ただしく出社する人々の姿。
バス内は満員の中揺られて、自転車では汗だくで出社している。
歩いている人達はうつむいていて顔色は暗い。
土日と平日では顔色が随分と変わるようだ。
突然挨拶をしたらきっと変な目で見られるはずだ。

下るまでの街並みは三者三様の人の姿を見せてくれる。
お金、時間、生活様式は密接に関係している。
きっと人は無意識にお金と時間の概念から離れたがっているはずだ。
こんな時計の針を気にしなければいけない
騒々しい朝とはおさらばだ。
出社の為にかかる費用を少しでも抑えようと
毎日満員バスに揺られて人波に揉まれる生活ともおさらばだ。

そんな過去をふと振り返りながら
家に引き返すために坂を上がっていく。

坂道は下るのは楽だが上がるのはつらい。
しかし、下っていくと景色は悪くなるが
つらい坂道を上った先に綺麗な景色がある。

ふと振り返り、自分の中で取り戻した静かな街並みを眺める。

上に下に歩いてみると平地では気づかなかった
人の風景が見えてきた。





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