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『ニコラ』時代は差し歯もせずニカッと笑って… 33歳になった“ガッキー”新垣結衣の「進化する愛され力」

以前、近藤正高氏(ライター)による「『ニコラ』時代は差し歯もせずニカッと笑って… 33歳になった“ガッキー”新垣結衣の「進化する愛され力」 6月11日は女優・新垣結衣の誕生日」(『文春オンライン』2021/06/11)という記事が載りました。ネットメディアはいつどんな事情で削除されるか分かりませんので記録のために全文引用致します。

 女優の新垣結衣が、きょう6月11日、33歳の誕生日を迎えた。先月19日には俳優・ミュージシャンの星野源との結婚を発表し、話題をさらった。オフィシャルファンクラブのサイトではこのとき、結婚とあわせ、所属事務所・レプロエンタテインメントとの専属契約を終了し、今後は個人で活動していくことも彼女自ら報告している。

 今年は新垣にとって、2001年にファッション誌『ニコラ』のモデルオーディションでグランプリを受賞し、芸能界入りして20周年の節目でもある。事務所からの独立を報告するなかでも、《熟慮の末、お仕事を始めてからちょうど20年という節目に皆様にご報告する運びとなり、なんだかまるで二度目の成人を迎えたような、未知への不安と希望が入り混じったような当時の気持ちが蘇り、不思議な巡り合わせを感じております》と、心機一転の決意をうかがわせた(※1)。

「あんなに可愛いのに、普通の人を自然に演じられる」女優

 モデルの仕事と並行して、俳優業を始めたのは2005年。翌年にはグリコポッキーのCMで一躍ブレイクを果たす。そこで見せた笑顔は「ガッキースマイル」と呼ばれ、いまでも彼女のチャームポイントとなっている。親しみやすい笑顔には、ちょっとしたエピソードがある。人より遅れて乳歯が抜けた彼女は、『ニコラ』時代の初期には、差し歯もせずに、歯がパカッと空いている状態でニカッと笑っていた。本人はカッコ悪いと思っていたが、当時の同誌編集長は「それがいい」と言ってくれたという(※2)。

 出演作品では、笑顔だけでなく一つひとつの表情が印象に残る。それはモデルの仕事で培われた部分も大きいのだろう。しかもどの表情も嘘っぽくなく、自然である。《新垣さんはあんなにキラキラしていて可愛いのに、普通の人を自然に表現できる。ちょっとした目線ひとつとっても的確で、細かい芝居がとても上手い》とは、脚本家・野木亜紀子の評だ(※3)。

 野木は、新垣が星野と初めて共演した『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年)のほか、『空飛ぶ広報室』(2013年)、『獣になれない私たち』(2018年)と彼女の主演ドラマを手がけてきた。新垣にとっても《野木さんの脚本で演じる時は、役の気持ちをどうやって運んでいったらいいのかを悩んだことがない》と語るほど、野木作品は役に入り込みやすいらしい(※4)。

星野源をうならせた、アドリブへの反応の早さ

 そんなふうに自然に役に入れるがゆえに、『逃げ恥』でカップルを演じた星野と距離を縮めることもできたのだろうか。放送時に2人で応じたインタビューにも、いま読むと、結婚への伏線ではないかと深読みしたくなる発言がたびたび出てくる。

 たとえば、あるインタビューでは2人の息がぴったり合った場面として、『逃げ恥』第5話の最後で、新垣演じるみくりと星野演じる平匡が一緒に瓦そばをつくるシーンが例にあがる。このとき、そばをお湯からザルに上げた平匡の眼鏡が曇った。星野いわく《あれは台本にあったわけではなくて『曇れ!』と思ったらちょうど曇って(笑)。うれしくてアドリブで『前が見えません』と言ったら、みくりさんがサッと自然に眼鏡を拭いてくれたんですよ。新垣さんの反応の早さたるや、本当にすごくて》(※5)。彼女が眼鏡を拭くところはオンエアではカットされたものの、その後、「ムズキュン特別編」と題してウェブで配信されたディレクターズカット版にはしっかり収められている。

2人で共有していた、「丁寧な暮らし」への思い

 今年正月の『逃げ恥』のスペシャルドラマの放送を前にした2人の対談では、最近は何を楽しみに生活しているかという話題になり、休みの日に自分でコーヒーを淹れて飲むのが幸せだという星野に対し、新垣は《それこそ食後にコーヒーをいれるとか、丁寧に暮らしている人たちの生活をSNSや本で見て、そういう生活をしている自分を妄想するのが楽しいです》と語っていた(※6)。すでにこのときには、彼女は生活面でも星野に引かれるものを感じていたのかもしれない。

『逃げ恥』はラブコメディの形をとりながらも、社会の生きにくさみたいなもののなかで、懸命に生きる人たちが丁寧に描かれていた。今年のスペシャルドラマでも、新型コロナウイルスの感染が拡大する最中にみくりが実家のある千葉・館山で出産し、東京にいる平匡とは感染を避けるため離れ離れのまま子育てを始めねばならないという状況から、夫婦が互いに葛藤するさまが描かれた。新垣と星野は撮影にあたり、2人が目の前のシリアスなハードルをどう面白く乗り越えていくか、監督も含めみんなで考えながら演じたという。

学校のように見守り成長させてくれた『コード・ブルー』

 じつは新垣は、もともと女優をやりたいと思って芸能界の仕事を始めたわけではなかった。それがなぜ、俳優の仕事を続けてこられたのか? あるインタビューで訊かれた彼女は、《なぜですかね。…分かりません(笑)》と断りつつも、《現場で仲良くなれて楽しいとか、お芝居の掛け合いがうまくいって楽しいとか、そういうことがちょっとずつ積み重なって、世界が広がっていった気がします》と答えていた(※2)。

 この発言からもうかがえるように、共演者やスタッフに恵まれたというのは大きいのだろう。2008年に始まり、その後2010年、2017年と3期にわたり放送されたドラマ『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~』は、共演した山下智久・比嘉愛未・浅利陽介・戸田恵梨香ら同世代の俳優たちと切磋琢磨しながら彼女を成長させた作品の一つである。2018年の劇場版公開時には、この作品について《私にとっては「学校」です。20代のはじめを見守ってもらって、再会して学び直したり。信頼や尊敬は月日が経つにつれて大きくなってるし、再集結するたびにそれを実感できる関係性はなかなかないと思います》と、共演者たちとの絆を強調した(※7)。

コメディエンヌもガングロもこなして、来年は大河にも

 脚本家では、前出の野木亜紀子のほか、古沢良太との出会いも大きい。古沢のやはりシリーズ化されたドラマ『リーガル・ハイ』(2012年・2013年)で彼女は、堺雅人演じる奇人弁護士に振り回されっぱなしの若手弁護士を演じ、見事なコメディエンヌぶりを発揮した。卓球の男女混合ダブルスのペアを描いた映画『ミックス。』でも、《誰が卓球をしている姿を見たいかと考えたときに、真っ先に浮かんだのが新垣さんでした》(※2)という古沢直々の指名で、ヒロインに起用された。その劇中ではガングロメイクに挑戦する彼女も見られる。

『ニコラ』でモデルデビューした20年前に始まり、新垣はそのときどきで周囲から魅力を引き出されながら俳優としても花開いた。女性誌などでは、そんな彼女の「愛され力」が注目されるほどだ。そこへ来て、俳優のほか音楽、文筆と幅広い才能を発揮する星野をパートナーに得て、新たに触発されることも少なくないだろう。すでに来年のNHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(三谷幸喜作)にも主要キャストの1人、八重(主人公・北条義時の初恋の人にして源頼朝の最初の妻)の役で出演が決まっている。今後の飛躍におおいに期待したい。

※1 「ご報告」(「新垣結衣オフィシャルファンクラブ」公式サイト、2021年5月19日配信)
※2 『日経エンタテインメント!』2017年11月号
※3 『SWITCH』2021年1月号
※4 『テレビブロス』2018年11月号
※5 『ザテレビジョン』2016年12月9日号
※6 『AERA』2020年12月28日・2021年1月4日号
※7 『AERA』2018年7月30日号

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