見出し画像

2.健診の目的の落とし穴

下表で示されるように、産業医活動は健康診断を軸として行われることが多いです。

産業医が関与した業務の割合

厚生労働省 産業医制度の在り方に関する検討会報告書・参考資料より

産業保健現場(職域)で行われる健康診断は、主に労働安全衛生法に基づく健康診断を指し、厳密にはその中にも色んな健診があるのですが、ここでは話を簡単にするために、1年に1度行われる定期健康診断を本記事の中では「健診」と呼ぶことにします。

健診で異常がないからといって、健康であるとか病気がないとは決して言えないことは当然だと思いますが、では健診の目的とは一体何でしょうか?よくある誤解としては、健康度の評価や生活習慣病対策、早期発見・早期治療、病気のスクリーニングといったものがあります。これらも確かに大事な目的ではありますが、職域で行われる健診の目的は一義的にはそうではありません。端的に言えば「働けるかどうかを判断するため」であり、もう少し別の言い方をすると、「労働者がその労働に従事できる健康状態にあるか、安全に働けるかどうかを判断するため」です。(病気かどうかという疾病性に引っ張られないことも重要です。)

平成20年の通達では以下のようなことが示されています。

「労働安全衛生法では、事業者に対して、労働者の健康の保持増進、疾病の早期発見・予防のみならず、労働者の就業の可否・適正配置・労働環境の評価などを判断するために、定期健康診断等の実施を義務づけている」

では、目的を誤解すると産業医活動上どのような問題が起きるか?それは優先順位や労働者との関わり方(主に面談)に影響が出てきます。

産業医は多くの場合、非常に限られたリソースです。嘱託産業医であれば月に2時間の訪問時間で色々な業務をこなさければならないこともあります。その中で、どのように優先順位をつけて、どの労働者に対応するかはとても重要です。目的がブレると本来は対応するべき労働者を漏らしてしまうこともありえます。
また、労働者に対する面談においても、健康度を上げることや、早期発見早期治療を目的にしてしまうことで面談のゴール設定が変わってしまいます。どんな労働に従事しているかを聞きそびれてしまい、本来判断するべきことが判断できない恐れがあります。企業は病院でもなく、診断や治療する場でもなければ、保健指導を行う場ではありません。企業は事業活動を行っており、労働者は働きに来ています。我々産業医の面談は、一義的にはその労働者が働けるかどうかを判断したり、働けるように支援するために行う必要があります。面談の目的については「目的なき面談という落とし穴」もご参照ください。

目的がぶれると健診対応に時間がとられがちになります。産業医活動が健診対応ばかりに終始してしまってはもったいないです!産業医活動の魅力の1つにはその幅の広さがあります。目的を意識して健診対応することで、それまで時間がなくてできなかった他の産業医活動(衛生委員会参加や職場巡視、衛生教育など)にも幅を広げることができ、結果的に様々な形で企業の安全衛生活動に貢献することができます。

職域の健診の一番の目的は「働けるかどうかを判断するため」です。落とし穴にはまらないようお気をつけ下さい。

本投稿は、こちらの書籍を参考にしております。丸ごと一冊が健康診断について書かれています。健康診断ひとつとっても本当に奥が深いです。ご興味があればご購入してみてください。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?