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ニューヨーク郊外で「食材を誰に届けるべきか?」に向き合う人たちと

ニューヨークのアップステイトにある農場Star Route Farm滞在記の続編。
前編はこちら▼

前半1週間は、共同経営者の1人であるティアナの家に滞在させてもらった。複数のプロジェクトを進める彼女は一日中オンラインミーティングが続く日もあり、常に忙しそう。配送業務も行う傍ら、農場の鶏や馬の面倒も見ている。家の庭に広い畑と温室があるが、全然手が行き届かないと嘆いていた。
忙しくて疲れているだろうに、いつも明るく笑っている。仕事の合間には彼女自身のことやプロジェクトの話を色々と聞かせてくれた。
語学力不足で理解できていないところがたくさんあるのが歯がゆいけれど、彼女が強い課題意識を持ちながら組織の今後の方向性を探っていることはよく伝わってきた。彼女たちの「今」を書き留めておきたい。

「食材を誰に届けるべきか?」に向き合う農家

現在Star Route Farmが取り組んでいるのは主に以下の4つ。

  • 複数の農場で連携したCSA(Star Route Farmはネットワーク団体の一つ。ティアナは取りまとめ団体側の経営者としての顔も持つ)

  • 地域の学校への食材提供

  • フードパントリーへの食材提供

  • 離農する人の農地と農業を始めたい若者をつなぐプロジェクト

コロナ禍前はブルックリンなど都市部のレストランへ野菜を卸していたが、コロナの影響で多くのレストランが閉店・休業に追い込まれた。それを機に自分たちも大きく方向転換し、必要な人たちのところへ食材を届ける動きをはじめたという。複数の農場で連携するCSAは維持しつつ、経済的理由で食にアクセスすることが難しい人たちに向けた食材提供を中心に非営利な取り組みを広く展開させた。
アメリカでは一般的に、地方にあるファームがそれぞれ都市部へ野菜を届け、都市部のファーマーズマーケットで裕福な人たちが新鮮なオーガニック野菜を買っていく。その現状に対して、それは良い在り方ではないと彼女は言う。(日本より国土が広いので各農家がそれなりに離れているのだと予想)
彼女たちが今重視して取り組んでいるのは、地方の近隣ファームが連携して食材を集約し、都市に送るのではなく、地方の学校や支援の必要なコミュニティに届けること。前編で触れたパーティのような寄付集めをしているのは、こうした非営利な活動が背景にある。コロナ禍は補助金や寄付も多く入り、プロジェクトが一気に拡大したという。

教会へ届ける用の400ポンド(約180kg)のキャベツを収穫


食だけでなく農地へのアプローチもある。高齢化等によって離農する人の土地が耕作放棄になる状況は日本に限った話ではない。
ティアナたちはそうした土地と、新たに農業を始めたいと考えている若者をつなぐプロジェクトに着手した。田舎での土地の貸し借りは関係性があってこそ成り立つというのは、日本の中山間地で暮らしていて実感として確かにある。その地域に暮らしコミュニティに根を張っているティアナと、ニューヨークで不動産関係の仕事をしていたという法的な専門知識のあるスタッフが手を組んで、1件目の事例がスタートしたばかりだそう。

ティアナはコーディネーターの鏡のような人だな、と感嘆しながら聞いた。本人は「私のバックグラウンドはアート系で、ビジネスのことは分からないことばかりなんだけどね」と苦笑いしていた。

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より身近に感じる食糧危機

彼女の持つ課題感は都市ー地方間のアンバランスさに限らない。
西海岸は乾燥によって山火事が年々多発し、中西部は干ばつにより水不足に陥っている。東海岸はハリケーンが来るのが問題だが、水は確保できているのでまだマシな方だという。
アメリカは大規模農業が主流で、彼女のようなオーガニックの小規模農家は少ないそう。西部や中西部の大きなファームが自然災害などによって生産がストップしたときの影響はあまりに大きく、多くの人の食が供給できなくなる。
彼女はそうした大規模農業が立ち行かなくなることに危機感を覚えていて、政府はそうした国土全体を見据えた手立てを十分に打てていないと憤る。小さな連携コミュニティを増やしていき、レジリエンスを高めることが重要だと思う。そんな話を聞かせてくれた。

説明してくれた時の図


この2ヶ月カナダとアメリカに滞在して、スーパーではプラントベースの食材を多く見かけた。カナダの西海岸のファームでは水を節約するため水耕栽培にチャレンジしていたし、カリフォルニアには壁面水耕栽培に取り組んでいる企業があるという話も聞いた。アラスカ近くの土地に長く住む農家のおじいさんは「この土地は乾燥が進み、いずれ孤立化するだろう」と危機感を露わにする。身近で喫緊の課題であることがヒシヒシと伝わってくる。
日本は日本で、毎日のように各地で大雨や土砂災害のニュースが入ってくる。台風も。みんな無事だろうか。

暮らしたい場所で暮らすために

ティアナがキャッツキルに移住したのが13年前、それから7年経って共同経営者のウォルター、アマンダと続いた。今回ドネーションパーティを取り仕切ったフランシスは、この半年前にニューヨークシティから移ってきた。フランシスのボーイフレンドは世界を飛び回るアートコレクターで、決して都市や空港へのアクセスが良いとは言えないこの土地に家を借りることを決めた。
「フィラデルフィアの方に仕事の拠点があるけれど、このキャッツキルで暮らしたいからここでできる仕事を考えている」とティアナのパートナー。アブサンの醸造所を引き継ぐ新たなプロジェクトを立ち上げようとしていた。推定65歳のウォルターは、近隣に新たな農地を買うことができたんだと、今後の展望を楽しそうに話す。やりたいことが尽きない、働き盛りな人たちだ。

アップステイトでの滞在を終えて、パートナーの中学時代の先輩の家に数日泊めてもらった。彼は日本企業の駐在で2年間ニューヨークシティで暮らし、もっとここにいたいと思うようになり、会計士の資格を取って現地の企業に転職したという。
新型コロナウィルスの感染拡大を受けてニューヨークシティから郊外へ出ていく人が増え、2年経って徐々に中心地に人の流れが戻りつつあるらしい。俯瞰的に見ればそうした流れはあれど、そこには一人ひとりの人生と決断がある。

自分が「暮らしたい」と感じたアンテナを信じる。そして、そこで暮らし続けられる努力や工夫をする生き様を、Star Route Farmで出会ったメンバー、そしてニューヨークの先輩から教えてもらった。


最終出勤(?)日。愉快なメンバーと働けて楽しかった!
激うまタコス!皮も手づくり!
収穫した野菜を教会に配送。困窮世帯に配る準備でボランティアスタッフがたくさん働いていた
ティアナとライアンの家にて
後半過ごしたアマンダたちのシェアハウス。猫の名はMACCHA(抹茶)
アーリー一家とじゃれるファク fromアルゼンチン。スペイン語を教えてもらった
キャベツ収穫した日のランチはお好み焼きフリークの2人に広島風お好み焼きを振る舞った

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