赤虫#1
とりせん横の道路が工事しているので、少女たちは高架下を通らなければ行けなくなった。
少女は路地を行く。
この町は幾分か狂い始めている、と少女は思っている。理髪店のサインポールは火曜日から逆回転をしているし、巡回バスはビーグル犬を轢き殺した。桃色のアパートは入居者を食べ、彼女の前を歩く少女のローファーは右足だけすり減っている。
少女は高架下を行く。
医師会病院の裏に散乱するエロ本。ピンクの文字が踊り狂う。はだけたナース服から赤い下着と白い乳房が覗いていて、湿ってくちゃくちゃになったそれを赤いランドセルの少女が拾う。その頭上の窓から青白い顔が覗く。病人もまた少女。それを目撃する彼女も少女。少女らを熟々と爛れた夕日が照らす。
女の堕落とは何か
青白い顔が問うた。赤ランドセルは黙っている。
男に従属することだ
青白い顔は半ば叫ぶように宣言した。
我々は独立しなければいけない
赤ランドセルは黙っている。
そこに写る女はどうだ。汚いだろう
赤ランドセルは手にしているエロ本に目を落とす。
男に従属したとき、我々は汚くなるのだ。本来はこんなに美しい我々は男によって醜く堕落する。我々は男の対象になってはいけない。独立し本来の美しさを保たなければいけないのだ
赤ランドセルはまだ黙っている。理解できないのかもしれないし、何も言うべきことがないのかもしれない。
お前はこの問題に気が付けて幸運だった
青白い顔はそう締めくくった。締めくくったすぐ後、背後から看護婦の声がして病人は引き下がり、中年の看護婦がぶつぶつ言いながら窓を閉めた。
赤ランドセルはそれをしばらく見上げ、エロ本を抱えたまま走り去った。少女はその赤く小さい背中が薄暗い路地を遠くなっていくのを見た。