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3月に読み終えた本

3月は肉体的にも精神的にも忙しく、あまり本を読む余裕がなかった。というのも、2月の記事の見出し画像と冒頭の文からも察していただけるように、引っ越したのである。引っ越しってめんどくさいですね。
あの本たちはというと、

といった感じになったのでとりあえずは安心した。
この記事の見出し画像の本棚は新居のものだが、本を並べながら「あ〜、あれなんで売っちゃったんだろ」とか思ったりして、やっぱり無限書庫(©魔法少女リリカルなのは)がほしいとなるのであった。

岸政彦『マンゴーと手榴弾――生活史の理論』(勁草書房)

岸政彦の、自身の社会学的方法論を書いた本だが、バリバリの理論書という感じでもなく、エッセイというのが一番しっくりくるかもしれない。デイヴィッドソンを扱う理論的な章もあるが、あまり硬質ではなく、それは背骨として、自身が聞き続けてきた「語り」があるからだろうというのがすべての章から感じ取ることができる。
岸の書きぶりはある意味で飄々としているが、その「語り」と、科学としての一般化を志す社会学を架橋しようとする思惑は『社会学はどこから来てどこへ行くのか』など他の社会学者ともガッツリ討論しているので興味がある人は読むといいと思う。量的調査も質的調査も「ある程度には正しい」という立ち位置は、個人的にはしっくりくる。
印象的だったのは、「語りのディティール」について触れたいくつかの章で、調査にはあまり関係ないけど心をつかまれる瞬間や語りを書く岸はが小説も書いているのはなるほどなと思える。


野林健、納家政嗣編『聞き書 緒方貞子回顧録』(岩波現代文庫)

緒方貞子といえば、国連難民高等弁務官やJICAの理事長を歴任した人で、昨年亡くなった。ニュースで見たか教科書で読んだか覚えてないが、国連の機関の長を日本人がやってるんだなあと思って記憶に残っていた。
実際に本書を読んでみて、へえーと思ったのは、この人がバリバリの政治学者だということだ。国連の職員はなんとなく政治家とか外交官のようなルートからなると想像していたので驚いた。前半はとくに政策決定過程論や自身の満州事変の研究についてゴリゴリに語られていて、思わぬ角度からおもしれーとなった(博士論文が岩波現代文庫に入っている)。話は前後するが、家柄もすごくて、曽祖父が犬養毅というのもすごい(五・一五事件のときの家の様子の話が出るのがすごすぎる)。祖父・父も外交官で、変な意味ではなく、こういう家で「すくすく」育つと超すごい人間が生まれるのだなというクソみたいな感想が出てくる。すごいしか言ってない。
UNHCRやJICAでの話になると、実務家としての能力の高さも舌を巻く。学者として理論を持ちながらも(持っているからこそ、かもしれない)、シビアな現場でのフレキシブルな判断を重ねていったいろんなエビソードは読み応えがある。学者としてのバックボーンと現場主義、そして徹底した人道主義者としての面が合わさってのことだろうと思う。
この文庫の元となった単行本は2015年に出ていて、その頃はもう90歳近くだったはずだが、それでもなおすさまじい記憶力と分析力が(聞き書きとはいえ)文章からも伝わってきて、マジもんのパワフルな人間を見た…という気になれる。おもしろく、そして力強い本だと思う。


『世界哲学史3――中世I 超越と普遍に向けて』(ちくま新書)

恒例になってきました。3巻です。
このシリーズ、なんとなく入門書感があるのだがそんなことはなく、内容はけっこう難しいと思う。とくに今回は中世ということで、知ってる歴史や固有名詞が少なかった。世界史に疎いというのもあるのだが、哲学者の名前でいっても、もうちょい時代を下らないと知ってる人が出てこないと思う。全然わからん。
ところで、この巻でようやく日本の思想が出てくる(空海の密教)。時代背景などは少しは分かるので、安心した(安心しただけ)。
今後の刊行予定を見ると、しばらくはなかなか難しそうなテーマが続くが、まあ続けて読んでみようと思う。