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6月に読み終えた本

6月は映画を2作品、映画館に見に行った。
ひとつめが『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』。これが本当に最高で、池袋のグランドシネマサンシャインのBESTIAというシステムのシアターで2回見てしまった(この作品にピッタリのシステムだった気がする)。TVアニメも素晴らしかったが、それに輪をかけて素晴らしく、映像、演出、演技、音楽などなど、すべてに圧倒されてしまった。内容もTVアニメのその後(あるいはその前)をしっかり描いていて、すごく満足した。
毒食えば皿までということでYouTubeで無料公開していた舞台版(『-The LIVE- #1 revival』)も見てみたが、これもめっちゃおもしろくて、今度やる新作舞台が俄然気になってしまった。見たことない人はとりあえずTVアニメ(きつかったら劇場版総集編)を見て、映画館で見れるうちに見に行っていただきたい。
ふたつめは『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』で、こちらも良かった。映像も音楽もかっこいいし、見ながらめちゃめちゃワクワクしてしまった。宇宙世紀のガンダムは話の流れはわかる程度だったけど、内容も問題なく理解できた(『逆襲のシャア』見てればいけるだろうと思ったけど、劇場アニメ版と小説版では若干違って、閃ハサは小説版からつながっているとかなんとか)。あと、未来の話ではあるけどテクノロジーの造形が地に足のついた感じで(当然モビルスーツとかは除く)それもよかった。残り2作が公開される予定だが、いまから楽しみである。

語彙がなさすぎるな。

劉 慈欣『三体III 死神永生 上・下』(早川書房)

読み終わった……おもしろすぎた……。
前作、前々作もスケールのでかい話だったが、今作はそれに輪をかけて大きく、時間も空間も軽々と飛び越えてしまう。それも無理矢理な感じもせず、ブロックを読み終えるたびにおもしれえ……となり、次のブロックでまたぶっ飛ぶ、ということの繰り返しだった。
簡単にネタバレができるような話でもないが内容に触れると、今作は「物理法則」を変えて攻撃や恒星間航行を行ったりすることがとても多く、そしてそれが話の中核なのだが、その変え方がすごくおもしろい。文章だけ読んでも想像が追いつかないのだが、しかしとんでもないことが起きているということは伝わってきて、終始ワクワクしながら読んだ。SFに詳しいわけではないのでこれが独自のものかとかはわからないのだけど、しかしそれを読ませるという意味では作者の腕がものすごいことがわかるし、翻訳もすごいのだと思う。
また今作は(前作もそうだったけど)、主人公の思い、感情、愛などが話を大きく変えてしまうという意味では、解説の大森望が言うように、セカイ系的なところもあり、ある意味では親しみやすかったのかもしれない。ミクロもマクロも書ききって、ひたすらおもしろく、ページを繰る手が止まらなかった。いまなら全作ぶっ通しで読めるので、一気に読め!


ジョゼフ・チャプスキ『収容所のプルースト』(共和国)

著者のチャプスキはポーランド人の画家・評論家で、この本はポーランド軍将校としてソ連の捕虜となっているときに、同じく捕虜たちに対して行ったプルーストの『失われた時を求めて』についての講義の記録である。先月読み終えた『プルーストを読む生活』でもたびたび言及されていて、気になった。
プルーストの講義と言っても、収容所に本はないし、チャプスキ自身も20年前に読んだ記憶を頼りに話すので、記憶違いなどがあったりする。しかし訳註として引かれる部分と照らしても、言葉遣いはともかく内容はエッセンスを十分汲み取っているし、周辺知識などに関しても同じで、プルーストが血肉になっているというのが伝わってきてすごい。なにより、いつ死ぬかわからない状況(実際同じように収容されたポーランド人が虐殺された、「カティンの虐殺」が起きていたことがソ連崩壊後に明らかになったらしい)の中で、なぜ文学作品の講義をするのか、ということを通して、文学とは何かという大きな問いに触れることが、本書を読む意味かもしれない。「わたしたちにはまだ思考し、その時の状況となんの関係もない精神的な事柄に反応することができる、と証明してくれるような知的努力に従事するのは、ひとつの喜び」(17-8頁)であるという言葉は、彼の経験に照らしてみると、非常に重い。
プルースト論としては、自分が『失われた時を求めて』を読んでいないので、そうなのか、という感じになってしまうのだが、この本で書かれていることだと、「プルーストの書くページは、事実そのものよりも、むしろ事実から彼が受けた衝撃によって呼び起こされた彼自身の思考の歴史となります」(56-7頁)という文章が気になって、あの作品の長大さというのは、精緻に書かれた「事実」(小説なので文字通り事実ではない)とその思考によってのことなのかなと思った。連続してプルーストについての文章を読んでいるので、さすがに気になってきた。いまなら岩波文庫版(吉川一義訳。岩波新書でこの訳者による解説本も出たらしい)で読み始めてみたいなと思う……けど、かなりの気合が必要そうだ。


吉川一義『『失われた時を求めて』への招待』(岩波新書)

てなわけで早速読んでみた。解説書といってもあらすじを追っていくようなものではなくて、著者がこの『失われた時を求めて』で重要だと思われるポイントに絞ったかたちで、本文の引用とともに読み解かれるといった趣き。
プルーストが「何を」書いたか、というよりもそれを「どのように」書いたかということがひたすら読み解かれているという印象を受けた。プルーストが自身の文学観、芸術観、社会観、といったものがこの作品のなかにはこれでもかというぐらいに詰め込まれていて、それをプルーストの書きぶりによって明らかにしていくという作業は、著者が長年この文豪と作品に向き合ってきたことがわかって、誠実さが伝わってくるようだった。
とはいえあまりにも長い作品を新書一冊でわかるわけもなく、どうしたって全部を読み通さないとだめだなあということもあらためて伝わってきて、ある意味では映画の予告編を見ているような気持ちにもなった。予告編は予告編で満足してしまうこともあるので、要注意ではあるが……。


北野勇作『100文字SF』(ハヤカワ文庫JA)

北野勇作がTwitterで続けているものを書籍化したもの。あっという間に読めてしまって、これは小説というより俳句や短歌だなとも思ってしまうが、しかしSFのエッセンスは濃縮されていて、100文字読む間に頭が揺さぶられる感じがあって楽しい。(とくに現代の)俳句や短歌も異質なイメージの突然の邂逅という面もあるけれども、SFの、常識を揺さぶり、問い直すというところにも似たようなところがあるのかもしれない。
Twitterを見ると、もう作品数が3,000を超えていて、これを日々考えるのは頭の体操になりそうだ、などというアホみたいな感想が出てくる。