ポケモン×工芸展　〜ポケットの中身はいつだって〜

今年の3/21から6/11まで金沢の国立工芸館で開催されたポケモン×工芸展。今はロサンゼルスのジャパンハウスへ巡回中で、来年以降は国内でも巡回展が予定されています。美術鑑賞とゲームの両方が趣味な私が初めて書く記事のトピックとしてはうってつけだと思い、筆を執ることにしました。

展覧会の構成とか、主な展示作品については色々な人がnoteに書いてるから今更私から触れたりはしません。以下のリンク先を読むなり、noteで「ポケモン×工芸展」と検索するなりして各自調べてもらえれば幸いです。

ポケモン×工芸展―美とわざの大発見― 特設ウェブサイト

さて展覧会自体の感想ですが、子供の頃リアルタイムでプレイしたのが初代と金銀だということもあり、その頃のポケモンをモチーフにした作品の記憶が強く残っています。特に池田晃将さんの作品はどれも印象的で、中でもアンノーン文字を螺鈿で描いた六角柱状の漆器は、まるで過去と未来が同居しているようでした。以前より池田さんの作風については知っていましたが、それがポケモンと組み合わさるとこうなるのか！　と新鮮な驚きと面白さを与えてくれました。

この記事のトップ画像に用いたのは桂盛仁さんによるホウオウの香合です（撮影：筆者）。高肉象嵌という、ある金属に異なる種類の金属をはめ込むという彫金の技法が用いられています。羽根の先端の色合いが少しずつ異なるのは写り加減によるものではなく、金を削って色味に差をつけているとの事。本来は銀のルギアの香合と対になるのですが、金銀では金の方をプレイしていたこともあり、個人的にはホウオウへの思い入れが強いのでこちらを使用しました。

福田亨さんの、色の違う木を組み合わせて作ったホウオウも印象的でした。空高く舞い上がる軌跡はよく見ると虹色になっていて、思わずアニメ第1話のラストシーンと重なって見えました。福田さんはまだ20代だそうで、いや本当凄いなぁ。

かと思えば御年68歳にして初めてポケモン（たぶん剣盾）をプレイされた池本一三さんによる、旅立ちから殿堂入りまでの冒険を描いたガラスの壺からは冒険のワクワク感をビンビンに感じました。それはやはり作品が作者の実体験を宿しているからなのでしょう。もしポケモンに関する資料だけもらって、それらしくまとめただけなら、ここまでのワクワクは伝わってこないように思います。いやー、ポケモンって本当にいいもんですねぇ。

私にとってポケモンと工芸はどちらも「ワクワクさせるもの」です。最近のアルセウスやSVは配信プレイを見るだけで自分ではプレイしていないれけど、見てるだけでもやっぱり面白い。工芸の方にしたって、今回のような現代作家の展覧会も、古いお茶道具の展覧会も、どちらも鑑賞していて楽しい。展示物を見ていて面白いというのもありますが、作品を見て色々考えたり、展覧会全体の意図を推測したりするのも面白いんです。

では、この「ポケモン×工芸展」の意図とは何だろう。副題が「美とわざの大発見」であることを踏まえて私なりに考えてみると、やはり「人とわざの関わり方」というのが大きなキーワードだろうと思うのです。

工、芸、技、術、いずれも「わざ」と読むことができる漢字です。しかし、そのニュアンスはそれぞれ微妙に異なります。副題であえて平仮名表記にしているのは特定の漢字の意味に引っ張られることを避けるためか、はたまたポケモンの「わざ」を連想させるためか。恐らく両方でしょう。

「技術的に優れたゲームが面白いゲームとは限らない」というような事を誰かが言っていたように記憶しています。岩田聡さんだったような気がするけど、あまり自信はありません。さておき、それと同じ事は工芸品に対しても言えるのではないでしょうか。

物凄くリアルに作られた置き物、とても微細な絵付が施された皿。そういう優れた技術、巧みな芸には凄みを感じます。しかし、必ずしもそれらにワクワクさせられるとは限りません。人の心を動かすのは「わざ」そのものの高度さよりも、「わざ」を使うことで伝えたい、表現したい何かの方なのかもしれない。そんな事を考えさせられた展覧会でした。

もっとも、そんな小難しい事考えずに「ロコンの壺かわヨ」とか「銅のサンダースカッケー」とか、気楽に眺めるだけでも十分面白い展覧会だと思います。ロスから戻った後、どの都道府県を巡回するかは分からないけど、金沢展を見逃した人も機会があれば是非訪れてみてはどうでしょう。