誰かを責めずに改善を積み重ねられるか

危うく田んぼ一枚分のお米をダメにするところだった、という話です。

5月は田植えシーズンです。私の実家もお米を作っています。毎年それなりの枚数の田んぼを管理し、大半は農協に出荷し、一部は私たちのご飯として頂いています。

田植えに関しては、司令塔が私の父、その他の家族(祖母、母、私と兄弟)はアシストです。そろそろ世代交代を考えなければならないのでしょうが、それはまた別の機会に考察することにします。

今年は3品種作る予定でした。コシヒカリ、五百万石、瑞穂の輝き。コシヒカリと五百万石は実家のハウス内で育苗し、瑞穂の輝きは親戚の家で屋外育苗していました。

田植え初日、1枚目の田んぼはコシヒカリです。父は田植え機に乗り、母は苗を手渡し、祖母は田植え機が通った後のタイヤ跡を均します。私と兄弟はハウスから苗を運びます。

父は、ハウスにある苗のうち、どれがコシヒカリでどれが五百万石か「苗の位置」で把握していました。この列のここまでコシヒカリ、あとは五百万石といった感じで。

母は父から、コシヒカリと五百万石の位置関係を「実際にハウスを見ずに」聞きました。

そして私たちは、母から聞いた位置関係で「何も考えずに」どんどん運びました。

1枚目の田んぼに苗を運び終わり、2枚目の田んぼを父に案内してもらう際に、念のためハウスを確認しました。そこで「1枚目の田んぼに異なる品種の苗が混ざっている」ことが発覚しました。

苗の特徴で品種を見極めるのは、ベテランでも至難の業です。農協に卸す以上、異なる品種が混ざったお米は絶対NGです。仮に1枚の田んぼに異なる品種を植えてしまった場合、その田んぼで収穫されたお米は出荷できません。数十万円の損害です。

家族全員が冷や汗をかきました。

幸い、コシヒカリと五百万石は、与えていた肥料の形状が違いました。苗の特徴ではなく肥料の形状によって、運び間違えた苗を見分けることができ、しかも田植え機に乗る人間が父だけであったために、異なる品種を植えずに済みました。

さあ、今回の出来事で、悪いのは誰でしょうか。

他人に苗を運ばせることを想定し、異なる品種を分かりやすく表現しておかなかった父が悪いのでしょうか。

実際のハウスを見ずに、位置関係を聞いただけで分かったつもりでいた母が悪いのでしょうか。

毎年苗を運んでいるにも関わらず、今年の品種の位置関係を父や母に再度確認しなかった私たちが悪いのでしょうか。

これは、誰が悪いわけではなく、システムが悪いのです。

ヒューマンエラーは、どんなに注意しても必ず起こります。そして起こってしまったことに対して、誰かを責めても解決するわけではありません。何より人を責める世界は、あまり良い気分にはなれません。

苗の取り違いの他にも、田植えはヒューマンエラーが多数発生します。

例えば田んぼ自体の配置は、必ずしも農家ごとにまとまっているわけではありません。私の実家の田んぼは、一枚も隣り合っていませんし、車で移動しなければならないくらい離れているものもあります。

農家ごとにまとまっていないとどうなるか。「田んぼを間違える」という、単純だけど致命的なエラーが発生する可能性が高いのです。植える田んぼを間違える、誰かの田んぼの水を出したり止めたりしてしまう、農薬散布する品種を間違えるなどなど・・・

そしてベテランの集団である父たちや祖母たちだとしても、このエラーは日常的に起こっているのです。致命的なエラーになっていないだけで、小さなエラーは日々起こっているのです。

「農家ごとにまとまるように区画整理する」というのは、単純な話ではありません。私は良く分かりませんが、田んぼにも一枚一枚特徴があるようです。以前父にそういう提案をしたら、烈火のごとく怒られました。

ただ、人の感覚や感情に頼るのではなく、システムを改善することで、農業はもっと生産性が高まると思うのです。

品種ごとに苗箱の色を変える、田んぼに旗を立てる、農家ごとにまとまるように区画整理する・・・小さなことが大きなことまで、やれることはたくさんあると思います。この「通例」「恒例」「昔ながら」「今まで通り」というものを、少しずつでも良いから改善していかないと、後継者はもちろん、新規就農者も増えないと思います。

先にチラッと世代交代の話が出ましたが、この問題を解決していくのは、私たちだと思っています。技術の向上も併せて、農業の未来を考えていかなければなりません。

ではまた。

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