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僕らは夜明けの夢を見る

「え? 3時間もあるの?」

脚本家と出演者だけで観ることを決めた舞台は、上演時間がまさかの約3時間だという。何も知らずに犀の角のゲストハウスの予約を取った過去の私えらい、えらすぎる。しかし「3時間もあるの?」と思った私に教えてあげたい。「3時間もあったけど、もう1回観たくなるよ!」と。

「Before the Dawn 夜明け前 第一部」
島崎藤村の長編歴史小説「夜明け前」を原作に犀の角(長野県上田市)と百景社(茨城県土浦市)が2年かけて作品創作をおこなうプロジェクト。その初日の公演を鑑賞した。本作の出演者およびスタッフには『貴婦人と泥棒』に携わった方々も多く、先にも書いたように、それが鑑賞を決めた主な理由だ。

開場。

リーフレットや今後のお知らせなどを座席でぱらぱらと見る。リーフレットとは別に添えられた人物相関図にどきどきする。「(出演者の数に対して登場人物多くない???)」「(裏方な人たちの名前も出演のところにあるんだけど???)」と首を傾げなら幕が上がるのを待った。

驚き。

何にって、まず衣装に。あらすじから幕末の話だと知り、勝手に和装だと思い込んだ。先入観。しかし、舞台の上に立つ彼らは完全に現代的な服装だった。具体的にいうと山歩きスタイルだ。「(これはあれかな? 導入は山歩きスタイルで途中で和装にチェンジパターン?)」私の予想は虚しく、彼らは基本的に終始、山歩きスタイルだった。最初こそ不思議さと違和感があったものの、いつの間にかその姿がしっくりきていた。

驚き、そして驚き。

何にって、構成に。私はリーフレットを読んだはずなのに、読めてなかった。

「結果として、『夜明け前』を読んでいく過程そのものが演劇になったように思います。」(「Before the Dawn 夜明け前 第一部」リーフレットより引用)

演出の志賀亮史さんの書かれた文章の一文だ。島崎藤村の「夜明け前」という作品に挑むにあたり、制作陣や出演者たちは舞台となった木曽路を訪れたそうだ。そして観客である私たちは、そのリサーチを追体験させられた。何を言ってるかわからないと思うが、私も最初何を観てるのかわからなかった。

「Before the Dawn 夜明け前 第一部」という作品は、藤村の「夜明け前」をもとに書かれた創作的な物語とそれを創る過程で生まれたドキュメンタリー的物語の組み合わせだった(創作的あるいはドキュメンタリー的という言葉が適切かはわからないが、今の私にはこのような表現しか思いつかなかったのでご容赦を)。こんな話の作り方があるのかよ。思わず言葉が荒くなるのを感じた。

出演者たち。

何度も書いてるようにこの舞台の鑑賞を決めた理由に出演者がある。『貴婦人と泥棒』の寺下雅二さん、永峯克将さん、山﨑到子さんの3人が出ていたからだ。主人公・青山半蔵を演じた寺さんは、信州おもてなし武将隊での活動もあってか、重心のようなものがどっしりしてきた気がする。

ミネさんは、正直なところ最初に出てきた時、ミネさんだとわからなかった。髪型のせいもあるかもしれないが、違う役者さんかと思った。『貴婦人と泥棒』の時よりもきらきらしてるし、なんだかたくましくなったように思う。到子さんはすごかった。『貴婦人と泥棒』の時も、実年齢より上の貴婦人を演じていたけれど、今回は年齢も性別も超えて半蔵の父や乳母を演じていた。貫禄。そう、それぞれの役にある貫禄がしっかり表現されていたように感じて圧倒された。

そして小林風生子さん。半蔵の妻・お民を演じていた彼女は、小柄ながらも良く通る声が素敵だった。個人的に「やばい」と思ったのが、百景社の山本晃子さん。半蔵の友人・蜂谷香蔵を演じた。「どうも、香蔵です」と名乗りながら登場するたび、ツボってしまった。好きです(告白)。小林風生子さんも山本晃子さんも、私の記憶がポンコツでなければ初めて見た役者さんだ。他のお芝居も観てみたいと思うほど魅力的だった。

そうそう本作では、舞台に立つ脚本家、舞台に立つ舞台監督、舞台に立つ照明スタッフという珍しいものを見た。「ちょこっと出る感じなのかな?」とリーフレットを見ながら思ったけど、がっつり出てて、驚きと尊敬と、謎の喜びがあった。そして犀の角の代表・荒井洋文さんの存在感たるや。

脚本。

原作がある作品が好きだからこそ、思う。大変だっただろうなと。内容を取捨選択し、ひとつの作品にする。「夜明け前」は第一部・第二部、上下合わせて全4巻もあるという。それだけの作品を読み込み、選び、削り、練り上げるのは凄まじいことだ。同じ歳の脚本家・岸亜弓さんがこの本を書き上げたことに尊敬の念を覚えるとともに嫉妬もする。髪の毛をわしゃわしゃしてやりたい(笑)

夜明け前。

ラストに夜明けを感じた。夜なのに。まだ夜明けまでにはかなり時間があったのに。ネタバレになるからあまり詳しく書かないけど、あれは昼の回だとどうだったのかな。ちょっと泣きそうになっちゃった。すごいね。あれは、すごいや。

終わりに。

まだまだ書きたいことがたくさんある。水墨画が素晴らしかったとか、舞台のセットや美術装飾すごかったとか。マスクすらも表現の一部になってることに魅せられたとか。うっかりWikipediaであれこれ調べてたら、結末まで知ってしまったこととか。しかし、流石にやや力尽きてきたのでここらで一旦、筆を置く。「Before the Dawn 夜明け前 第一部」もう1回観たかったけど、完売御礼で嬉しいやら悲しいやら。再演してほしいし、第二部も楽しみだ。

犀の角、5周年おめでとうございます。

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