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舞台『貴婦人と泥棒』やぎちゃんの稽古場レポート

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2021年2月27日(土)・28日(日)に長野県上田市の劇場・犀の角で上演される舞台『貴婦人と泥棒』の稽古場レポート。
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000|『貴婦人と泥棒』稽古場レポートによせて

000|『貴婦人と泥棒』稽古場レポートによせて

「やぎちゃんの熱量高い文章が好きなんです」

思い出しても頬が緩む。新作公演の稽古場レポートを書いてほしいと岸亜弓さんに頼まれたのは12月のある日のこと。「好きなんです」と言われたら、そりゃもうやるしかねぇと心の中で腕まくりをした。

私は普段、エッセイ時々小説、という感じで気の赴くままに書き散らしている。基本的には映画と上田の話ばかりだ。でも演劇‪も好きだ。学生時代、演劇好きの友人に大きな箱から

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001|立ち上がる

001|立ち上がる

2021年1月13日(水)@犀の角
劇壇百羊箱新作公演『貴婦人と泥棒』の顔合わせの日。私はふと自分が人見知りなのを思い出してしまった。大丈夫だろうか。そわそわしながら三階へ向かう。プロデューサーの伊藤茶色(いとう ちゃいろ)さんの顔を見てほっとするも、さっそく身の置き場所に困る。とりあえず検温せねばと、体温計を持っていた男性に声をかける。

「や、やぎと申します。よろしくお願いします」
「やぎさん

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002|したためる

002|したためる

《 あなたに" 手紙 "を送ります 》

劇壇百羊箱新作公演『貴婦人と泥棒』では公演のDMをお手紙として送るという企画を行っている。これは作・演出を担当している岸さんが神戸出身ということもあり、長野に来てからお世話になった方々に公演のことを手紙で知らせたいとの想いから生まれた企画だ。シックな色味の便箋には、フライヤーと同じく大きな川が流れ、封筒には主人公とタイトルが描かれている。デザインはフライヤ

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003|広がる

003|広がる

1月20日(水)犀の角(稽古場)
平日の稽古は夜に行われる。寒い中、少し早歩きで稽古場に向かったからか、検温が上手くいかない。仕方がないので、手首で測ったら平熱だった。私が検温に悪戦苦闘している間に、役者さんたちはストレッチを始めた。力強くも凛としたトウコさんの声が稽古場に広がる。トウコさんとは、今回『貴婦人と泥棒』で貴婦人役を務める山﨑到子(やまざき とうこ)さんのことだ。私は以前、劇壇百羊箱の

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004|上がる

004|上がる

1月24日(日)犀の角(稽古場)
稽古場がある3階に上がると、稽古はもう終盤に差し掛かっていた。アサヒ役の寺下雅二さんとユキとアサヒが勤める家事代行サービス会社の社長・瀬尾役の舞沢智子(まいざわ ともこ)さんが、静かに火花を散らすシーンを演じている。稽古は基本的に演技と岸さんのフィードバックの繰り返しだ。でも、私の目ではまだ役者さんたちの演技の機微が捉えられない。「なぜそんなふうにこのセリフに抑揚

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005|流れる

005|流れる

この連載を読んでくださってる方にはお馴染みの『貴婦人と泥棒』のチラシ。今回はこの素敵なチラシを作成された夜ノ帳社さんについて綴ろうと思う。

1月16日(土)犀の角(カフェ)

『貴婦人と泥棒』の顔合わせから3日後。プロデューサーの茶色さんにセッティングしてもらい、夜ノ帳社さんにお話を伺った。夜ノ帳社さんはイラストレーターのmiuroさんとリサーチ担当の藤澤智徳(ふじさわ とものり)さんの2人によ

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006|考える

006|考える

2月3日(水)犀の角(稽古場)
プロデューサーの茶色さんが稽古場の床をメジャーで測っている。そして稽古場を2つに分けるようにテープを貼った。縦に、斜めに、至るところにテープが貼られていく。いわゆるバミリというやつだ。バミリとは、セットの設置場所や役者の立ち位置にテープを貼り、目印にすること。「ここはこれくらいの高さになるよ」と茶色さんがバミリを元に舞台セットの説明をする。空間が設定された状態で初め

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007|共有する

007|共有する

2月14日(日)犀の角(稽古場)

彼女はこの『貴婦人と泥棒』の屋台骨なのだと思った。貴婦人という役柄も、その人柄も、全部ひっくるめて彼女はこの稽古場の中心にいた。山﨑到子(やまざき とうこ)さん、今回の『貴婦人と泥棒』を含め劇壇百羊箱の全公演に関わっている。ちなみに前回の公演『M夫人の回想』はトウコさんの一人芝居だ。彼女に『貴婦人と泥棒』について聞いてみると「種蒔きのような公演」という答えが返っ

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008|離れる

008|離れる

2月17日(水)犀の角(稽古場)
台本を見るのをやめた。この日、初めて通し稽古が行われた。台本を手放した私は、スマホを鞄の底に沈め、写真も撮らず、可能な限りお客さん目線でいることを試みた。休憩含めて約2時間、芝居は止まることなくラストを迎えた。あまりのエネルギーに呆けそうになる自分に喝を入れ、演出の岸さんに話を聞きに行く。「今までは大きな何かを作らなきゃいけないと思っていたけど、通し稽古をしたこと

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009|観る

009|観る

2021年2月27日(土)犀の角
晴れの日が多い上田の街。でもこの日は曇り空が広がり、2月らしい寒さに身を震わせた。ひんやりとした空気の中『貴婦人と泥棒』の幕が上がる。

満員御礼。前日の時点で予約分のチケットが完売という幸先の良さ。消毒を終えた座席に挟み込みと呼ばれるチラシのセットを配置する。気がつけば開場10分前。役者陣、そしてスタッフ一同、距離を取りながら円陣を組む。ミネさんの「いくぞー!」

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010|終わる

010|終わる

ノートを買っても使い切らずに新しいものを買ってしまう癖がある。でも、年末に買ったノートはほぼ終わり、同時期に買ったボールペンのインクは切れた。それだけの言葉や感情をしたためながら、犀の角の3階で起きていたことを見つめ続けた1ヶ月半。稽古場レポートを通して役者陣の変化や成長、ひとつの作品が作られていく様子を綴ってきた。でも、実は『貴婦人と泥棒』の完成台本を読んだ時「あ、これは私の好きな物語ではない」

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