テクノロジーを背景に、自然と共生し居所のたくさんある住まい 〜YKK AP×リビタ「広がる屋根」
YKK APとリビタによる最新の「性能向上リノベーション」プロジェクト「広がる屋根」は、築37年の木造住宅をリノベーションしたもの。大きく非対称な草の屋根を持ったこの家は、「断熱・耐震性能の向上を図るだけでなく、自然エネルギーとの共生を図る住まい方の提案」である。今回はその記者発表にお邪魔した。
「広がる屋根」は、東急田園都市線 たまプラーザ駅から徒歩で13分。公園近くの小高い丘陵地の上に建っている。冬だというのに少し汗ばむ距離と場所。
最初にお話し下さったのは、YKK AP(株)執行役員 リノベーション本部長 海老原功一さん。
YKK APが他社とコラボするのは珍しいが、リビタとは2017年の「代沢の家」という前例があり、今回が2例目。「性能向上リノベーション」の意味するところは、窓=価値と考えるYKK APがリビタのリノベーション事業「HOWS Renovation(ハウスリノベーション)」にともに取り組むことによって、新築以上の価値を実現することにある。
そのポイントは、(1)耐震性向上と(2)断熱性向上のふたつである。
(1)震度6強の地震が複数回発生すると、90%以上の建物に倒壊の可能性があるところ(2014/12耐震診断調査DATE)、YKK APでは窓という開口部を補強することで倒壊の危険を免れる安全・安心の家を実現する。
(2)アルミサッシ+単板ガラスの無断熱住宅が93%を占める(H11国交省推計)状況を転換し、断熱による健康・快適・省エネ住宅を実現する。
続いて説明に立った株式会社リビタ 常務取締役 久保雅一さんは、流通が活性化しているマンションとの対比において4分の1にとどまる戸建リノベーションの特徴を解説してくれた。
それによると、戸建には中古マンションより空間構成が自由であるといった大きなメリットがあるものの、図面や増改築の経緯などが不明若しくは不備であったり、世帯毎に個別の要素が多すぎるという問題があるという。したがって、新築のように数値評価の指標だけではリノベーションに必要な客観的な情報が得られにくく、長期修繕計画を住まい手自らが立てて予算化するのは難しい。
その点、リビタが提供するHOWS Renovationは、情報を可視化させることで住まい手の工夫による性能向上を促す。家に“手を掛ける”きっかけをつくる役割を果たそうというワケだ。
今回の「広がる屋根」は、YKK APが建物の立地環境における通風解析と日照シミュレーションによって自然エネルギーを可視化。エネルギーパスを発行して燃費性能も示す。単なるプランニングだけでなく、目に見える形で提案している。さらにリビタによる長期修繕計画を立て、改修履歴をデータ化するという。
今回設計を担当した納谷建築設計事務所の納谷新さんのお話しが印象的だった。
コンセプトは、「一杯のコーヒーがおいしく、季節を感じる家」という。この「広がる屋根」は、納谷さんの自邸(下の写真)と同じく、グリーンの屋根とロフトがあり、冬には深く日が差し込むが夏は日が入らない3・3mと軒が深いのが特徴だ。
片腕だけ大きいカニのように、一見アンバランスなように見えて実際には進化してできたような、新しいスタイル提案をしたという。
「誰かに住み方を提案されるのではなく、使い手がアップデートを受け入れられる家が好ましい」と納谷さん。そのためには、建物はいつでも手に入る建材で造り、無垢・無塗装にして住まい手自身でワックス掛けなどのメンテナンスもできるよう、レクチャーする。
今回のようなデータも、それを活かしつつどう使いこなしていくかは住まい手と会話しながら組み立てていく。建物としての性能向上のみならず、情報の可視化と暮らし方提案が大切だと述べられ、人が住まう以上、スペックだけでなく愛着や記憶づくりも重要だということをさらりと指摘されていた。
この「広がる屋根」というタイトルも、屋根を広げることによって住み手の居所を増やす、という趣旨なのだと分かる。
※最後にデータについて。YKK AP リノベーション本部 岩崎武さんのご説明は、次の通り。
今回の「広がる屋根」は、築37年の木造住宅をリノベーション。必要な断熱とYKK APの窓APW330、YAPW430を施すHEAT20G1で、断熱性能は約3倍。冬の室内は16.1℃となり、呼吸器系に影響が生じるといわれる下限の16℃(イギリス保健省登記の室温指針)をクリアーする。
通風解析では、公園がある南西から吹く風をいかに建物に取り込むかが重視された。そのため、窓を引き違いではなくワイドオープンをすることで、1階に大開口から取り込んだ風が2階のスノコ床を透過して抜けていく構造とした。
また、日照シミュレーションはシーズン毎の違いを動画化。冬に日照を採り入れる屋根のカタチを検討した。
しかし一方で、このような大開口と耐震性という相反する要求を満たす手法として、木質の耐震フレーム「フレームⅡ」を採用。耐震等級3・評点1.5に相当し、震度6強の地震にも倒壊を免れる設計(木造住宅倒壊解析ソフトウェアwallstat ver4.0.0.)。この評点であれば、たとえ震度7が2回来てもほぼ無被害でそのまま住み続けられるという。現行法の基準=評点1.06では倒壊はしないので逃げる時間は稼げるものの、大破するので避難所生活となるという。