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013 マルカム・ノールズ理論に沿った中高齢者の採用面接のやり方

マルカム・ノールズによると、若者は「受動的」(ペタゴジー)であり、中高齢者は「主体的」(アンドラゴジー)である。

この違いが採用面接にも現れる。

若者採用の場合なら「模範解答できる人材」が採用候補になるので、面接は模範解答につながる「1問1答型」で行われる。

これに対して中高齢者の場合、アンドラゴジーの特徴である「主体性」を把握しなければならないので「キャッチボール型」になる。

今回はそのキャッチボールのやり方を紹介したいと思う。

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1.自社との合致度の確認

中高齢者面接の場合、質問に対する答えを知ることより、会話のキャッチボール自体が目的だから、最初の質問はなんでも構わない。

だいたい次のような感じで始めたら良い。

自社との合致度の確認のやり取りの例
(面談者)当社を志望した理由を教えてくれますか?
(求職者)はい、御社の経営理念「郷土の味の文化を発掘し発展させます」に感銘しました。
(面談者)「郷土の味の文化~」に感銘・・・、そこをもう少しお話していただけますか?
(求職者)はい、飲食業界に入って20年経ちますが、北海道特有の○○な味付けが・・・

上記のように「信念が現れていると思われる言葉」を拾い上げる形で、キャッチボールをする。

すると求職者の理念が現れだし、自社と合うかどうかが判断できるようになる。

2.信頼関係づくり

キャリア自律の時代では、企業側が人選するより、求職者側から「どうやったら選ばれるか?」が重要になる。

だから、まず面談者の方から求職者との信頼関係づくり、続けて求職者が積み重ねてきた経験を聴くやり方になる。

それによってお互いの良いところが分かり、マッチングが進む。

信頼関係をつくるやり取りの例
(面談者)最近、何か「おもしろい」と感じたことがあれば教えてくれますか?
(求職者)はい、私は水彩が趣味なんですけど、先日、美術館に行きましたら、たまたま好きな作家の作品がありまして・・・(省略)。
(面談者)水彩をやられているんですか。もうちょっと、そのお話しできますか?
(求職者)はい、実は学生時代、美術部に所属していまして・・・

なお、上記のようなやり取りに対して、「プライベートな話はダメじゃないか?」と思う人もいるんじゃないかな。

でもその考え方は模範解答を良しとする若者採用の発想である。

中高齢者の場合は、むしろ進んでプライベートの話をする方が自己開示力があると判断できるし、採用側にしても「人となり」を把握できるメリットがある。

3.価値観の確認

キャッチボール型の採用面接をすると、年齢相応の価値観の持ち主かどうかが把握できる。

価値観の確認のやり取りの例
(面談者)仕事で大切にしていることは何ですか?
(求職者)大切にしていることですか…、「嘘をつかない」「人の嫌がることをしない」ですかねね。
(面談者)ああ、なるほど、それではまず「嘘をつかない」についてもう少し教えてくれますか?
(求職者)はい、子供のころに親から「嘘は泥棒のはじまり」って教えられたのもありますが・・・

仮に若者に対してこの質問をしたら、きっと当たり障りの無い模範解答をするのではないか。

でも、中高齢者の場合、アンドラゴジーなので、本当の価値観を語ってくれる場合が多い。

逆に言えば、価値観も語れない中高齢者は、十分な成熟をしていないとも取れる。

このように価値観を引き出し、さらに深堀をすることで、戦力になる人材かどうかを判断することができる。

4.専門性の確認

AI化やロボット化が進む現在、「AIやロボットにできる仕事はAIやロボットに」「人しかできないことを人に」というすみ分けが進んでいる。

これに伴い、企業は「ゼネラリスト志向」から「スペシャリスト志向」へと人材方針を変えてきている。

ビジネスの専門性がどんどん高まっているため、もはやゼネラリストが根性で頑張ればどうにかなる、という時代ではなくなっているということだ。

そこで、より専門性の高い人材を採用するためには、求職者の専門性を聞き出さないとならなくなっている。

もちろん、露骨に「あなたの専門性は何ですか?」なんて聞き方をしても、ダメだろう。

ある程度専門性に知見のある面談者が、キャッチボールしながら深堀をしないと、人材の専門性を把握することはできない。

専門性の確認のやり取りの例
(面談者)○○に関する知識はありますか?
(求職者)すみません。○○と言ってもいろいろありますが、特にどのあたりのことを話したらよいのでしょうか?
(面談者)うちの仕事は△△が多いので、それに関連する知識について教えてくれますか?
(求職者)はい、十分とは言えませんが、△△については、✕✕という資格をもっています。

実は、専門性の高い人材であればあるほど、専門分野が狭く深くなるので、面談者もある程度知見が無いと、求職者の専門性を完全に聞き出すことは難しい。

ただし、専門性だけでなく社会性や柔軟性も兼ね備えた人材であれば、面談者のレベルに応じて受け答えを変えてくれるだろうから、そこもチェックポイントになる。

5.責任感の確認

中高齢者の採用において、もっとも重視したいのは「責任感」だと思う。

誰でも年齢を重ねるに従い、責任感は高まる傾向があるけど、人によってはまったく責任感の育っていない場合もあるので、それを把握する必要がある。

責任感を確認するやり取りの例
(面談者)組織目標の達成を阻む原因が見つかったら、あなたはどうしますか?
(求職者)はい、改善策を考え、立場に応じた行動をとります。
(面談者)そのような対応をした経験があれば教えてください。
(求職者)前の会社では課長職だったのですが、予算未達の兆候を感じたら、徹底的に情報収集し・・・。

上記のとおり、年齢相応の責任感の持ち主は、何らかの方法論を持っているものである。

そのやり方が正しいかどうかは別にしても、語っている時の表情や声色などから、責任感の有無は把握することができるだろう。

6.成熟度の確認

中高齢者の採用において、全般的に気になるのは、年齢相応に成熟した人物かどうかじゃないかな。

これを把握するためには次のようなやり取りをする。

成熟度を確認するやり取りの例
(面談者)仕事に関して、失敗談があれば教えてくれますか?
(求職者)はい、前の会社で、重要な顧客を怒らせてしまいました。これが辞めた原因なんですけど…
(面談者)ああ、顧客を・・・。
(求職者)ええ、けっきょくのところ私の勘違いだったのですが、私の仕事に対するこだわりがマイナスに働いてしまったというか…

上記の例を読んで「顧客を怒らせた?!」って反応をする人もいるんじゃないかな。

若者面談だったら、口が裂けてもこういうことは言わないだろう。

でも、中高齢者の場合、アンドラゴジーなので、自分の失敗談を語れるくらいでちょうど良い。

チェックポイントは次のとおりだ。
①他責でも自責でもなく、出来事を冷静に分析できているか。
②体験とそこから得た教訓を語れるか。
③その教訓は、ここの会社でも必要とするものか。

7.創造性の確認

アンドラゴジーとしてしっかり成長した人材は、得意分野に関して、状況と目的を踏まえた解決策を作り上げる能力がある。

とくに「知的好奇心」の高い人材の場合、事業変革の原動力になる場合もあるので、創造性の把握は重要である。

創造性の確認のやり取りの例
(面談者)現在、将来に向けて学んでいることや活動していることはありますか?
(求職者)はい、仕事面ではありませんが、2年前から将棋をはじめました。
(面談者)将棋ですか。どうして将棋をしようと思ったのですか?
(求職者)ずっと無趣味だったのですが、趣味のひとつも持たないと、と思い、子どもの頃得意だった将棋をやることにしました。

ここでも将棋という趣味の話になっていることに違和感を感じる人はいるだろう。

でも、何度も言っている通り、中高齢者はアンドラゴジーなので、模範解答以外の受け答えができるくらいでちょうど良いのである。

これら趣味の話の中にも、求職者の資質や価値観など、「強み」が隠れていることがあるので、それを聴きだしたら良い。

8.中長期の目標の確認

面談者にとって、求職者が「この会社で働きたい」という気持ちになってもらうことは重要である。

昭和のころなら、「うちの会社で働かせてやる」ような気持の面接官もいただろうけど、そういう化石のような面談者はもういないだろう。

では、どうやったら求職者は「この会社で働きたい」と思ってくれるのか?

中長期の目標を聞くことが有効である。

その目標がかなえられる会社であると理解してもらえれば、求職者は、「この会社で働きたい」という気持ちになる。

中長期の目標の確認のやり取り例
(面談者)キャリア目標の視点で、今回の募集内容のどこが魅力的に感じましたか?
(求職者)はい、私は10年後には自分の店を持ちたいと考えています。御社で働くことでその道がひらけると考えました。
(面談者)10年後には自分の店を持ちたい・・・?
(求職者)はい、面接の場で自分の夢を語ることにちょっと恐縮しますが・・・

このやり取りを見て「この人、10年後には辞めるって宣言しているようなものじゃないか?」という疑問を持つ人もいるだろう。

でも、今の時代、雇用の流動化は必然であり、昔のように終身雇用なんて企業側も言えないだろうし、求職者側も期待していない。

そんな昭和チックな配慮?よりも、はっきりと自分のキャリア目標を語れる人の方が有能な場合が多いものである。



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