NPOに関わってきた20年の反省とこれから

はじめまして、渡邉文隆と申します。

非営利組織への寄付を募集することを専門にする、ファンドレイザーという仕事をしています。

私は大学に入学した2000年から、あしなが育英会というNPOで、ファンドレイジング(寄付募集)等の活動にボランティアとして携わりはじめました。

就職してついた仕事はマーケティングだったので、仕事で覚えたマーケティングのノウハウを、NPOでの活動に活かす、ということをライフワークとしてきました。

かれこれ、20年近く、寄付に関する活動や仕事をしていることになります。

ボランティアやプロボノ(スキルを活かしたボランティア)として、様々な組織に関わってきました。

遺児支援、自殺予防、国際協力、在日外国人子弟の教育、小児医療などのNPOはもちろん、中間支援(NPOを支援するNPO)や、いわゆる「社会的企業」と呼ばれる組織でも仕事をしました。

それぞれの活動は、非常に意義のある、確かに社会に対して変化を起こしている組織でした。

しかし、この20年、日本の社会の「全体」が良くなってきたかというと、まったく自信がありません。


自分はいま39歳ですので、20年というと、人生の半分以上を寄付や社会的な活動のために費やしてきたことになります。

反省

一体、何がまずかったんだろう?と考えてきました。

今の時点で考えている原因は、2つあります。

少し矛盾するようですが、この2つについて書いてみたいと思います。

1つは、自分を含めて、2000年以降の日本の「ソーシャル」な人々の多くが「すごく困っている少数の人」がいる現場に強くひきつけられていて、データ等が示す「うっすら困っているたくさんの人」の状況に対して、関心が弱かったからではないか、というものです。


つまり、

社会を構成する多数派の人にとって重要な問題に、正面から取り組むことができなかった

というのが、自分にとってのこの20年の失敗だと思っています。

たとえば、選挙制度や、学校教育そのものの在り方といった、従来のシステムそのものについて、自分の関心があまりに低かったと反省しています。

NPO法人という新しい法人格ができ、社会のサブシステムとして、触媒やテコのような働きをし、革新的な変化を起こせる、という期待を抱いていました。

たしかにそのような働きをする素晴らしいNPOもありますが、それはシステム全体を変革するには至っていない場合も多かったように感じます。

だから私はいま、どちらかというと広義のNPO、つまり大学・研究所・図書館・美術館・公民館・福祉施設・自治体・病院・政党・省庁などの、そのコミュニティや社会にとってのメインシステムを構成している、伝統的な非営利組織に関心があります。


もう1つは、先ほどの話と矛盾するようですが、

「社会」というような大きなことばかりを考えて、科学的に妥当な非営利組織運営について徹底して考える、ということができていなかった

というものです。

「社会」を批判することに慣れきってしまい、自分たちの組織に対する健全な自己批判や科学的な改善ができていなかったのかもしれない、ということです。

平等な社会を目指すべきNPOが長時間労働やハラスメントの温床だったり、まったく効果的でない寄付募集によって時間と費用を無駄にしていたり。

そんなことがあっても、

「自分たちは社会にとって良いこと・正しいことをしているのだから」

という甘えが、冷静なカイゼンを妨げていたように思っています。


幸いなことに、社会的インパクト評価やNPOマーケティングの普及といった動きによって、本当に世の中に貢献するということがどういうことなのかを考える非営利組織は、この20年で間違いなく増えました。

一方で、それはどちらかというとNPOの「本業」とされる分野においてであって、バックオフィスの改善について、民間企業と同じくらいのコスト意識とスピードで改革を進めてくることができた非営利組織は、稀有なのではないかと思います。

非営利組織はおそろしいほど重要

私はいま大学院で非営利組織の寄付募集をマーケティングの観点から研究しています。

人はその人格形成にとって重要な時間の多くを、非営利組織で過ごします。

病院で生まれ、幼稚園や保育所、小学校で幼少期を過ごし、教育委員会の方針の下にある中学校や高校で学びます。

公民館で遊び、図書館に通い、美術館に憧れて育ちます。

その町の運営は、町の役場や議員の所属する政党が左右します。

したがって、こうした非営利組織がすぐれた経営を行っていることは、人の幸福にダイレクトに影響を与えます。

逆に、ひどい運営をされている学校で一生消えない傷を負う子どもがいたり、ファンドレイジングの打ち手を持たずにつぶれてしまう美術館があったり、スキャンダルの絶えない政党などが存続していたりすることは、そのコミュニティの一員である人の誇りを傷つけたり、非営利組織の支援を通じて社会に貢献しようという気持ちを削いでしまう、きわめて重大な問題です。

このように、非営利組織の経営・マーケティングというのは、おそろしいほど重要なテーマです。

にもかかわらず、民間企業の経営・マーケティングに比べて、十分な量の研究がなされているとは私には思えないのです。

この分野で先駆的な研究をされている先生方がおられるのですが、そんな先生方を困らせるくらいに、この分野を学びたいという学生や支援したいという寄付者が殺到してもおかしくない、どう考えても、もっと人材や資金が集まるべきテーマです。

公共政策や公共経済学、あるいは社会問題の研究は非常に分厚く蓄積があると思いますが、それらの研究成果を非営利組織経営やマーケティングの実務において活用する、という社会実装分野にもっとリソースが必要だと感じています。

この20年とこれからの20年

日本はこの20年で、普通の人が「けっこう苦しい」「うっすら困っている」
という感覚を持つ国になってきたと思います。

かつてのように、すごく困っている少数の人に対して、同情に似た関心を持つような余裕は、大半の人にはなくなっていると思います。

私はファンドレイザーのひとりとして、寄付文化を広めたいと考えていますが、その前提として、社会がある程度の余力を持っているということは必須のようにも感じています。


社会を支えるシステムに疲労のようなものが蓄積していることは、去年と今年の一連の感染症への社会の対応を目の当たりにして、多くの人が実感したと思います。

システムというのは、法律や制度といったものもありますが、それらを運用したり変更したりするのは人であり、人は何らかの非営利組織に所属して社会的なシステムに影響を及ぼします。

(たとえば、ひどい運営をされている省庁において、過労死直前まで働いている官僚の方が、システムを改善するのに最も効果的な打ち手を考案できるでしょうか?)

ですから、非営利組織の経営を変えることは、システムを改善するための有効な手立てだと思われます。


これからの20年も、おそらく自分は、さまざまな非営利組織に関わり続けると思います。

これまでの20年のような失敗は、もう絶対にしないと心に誓っています。

科学的に考え、より多くの人にこのテーマの重要性を理解いただけるよう努力し、必要な資金をこのセクターに呼び込めるよう、最善を尽くしたいと考えています。

参加してみませんか

ここまで読んでくださった方、よければ今年オンラインで開催される日本NPO学会にぜひご参加ください。私も発表しますが、非営利組織について考えるには素晴らしい場所になると思います。

(本日まで早割です!)

https://janpora23.peatix.com/

寄付のマーケティングというテーマに関心のある方は、私のブログやTwitter、Facebookで関連情報を流していますので、よければご覧ください。

https://www.facebook.com/givingscience


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