見出し画像

車と反社と右翼と俺

大人の階段登る、君はまだシンデレラさー

そんな一節が耳に刺さる。

ここ2年間で僕は仕事を変えて、しっかりと大人になるために頑張って働いたと思う。
自画自賛で恥ずかしいが、現状を変える為や守るものの為に小さいながら色々な犠牲を払ったり、新しい学びを得てはすこしづつ成長していたと思う。
人並み以下からの社会人スタートの上、スタートダッシュは失敗だったから。
カウントでBを押しすぎたマリオカートみたいに。

話は変わるが、僕の自家用車は事故車の10年落ち以上のフィットだ。
愛着もあったし、初めて紆余曲折を共にした相棒みたいな車だった。
彼女や友達を乗せたり、毎日仕事でカーステ爆音生活は最高だった。

そんな相棒が先日、急に爆音を立てて止まりかけレッカー車に乗せられていた。
無理させすぎてごめん、いや、はっきり言おう。
整備しなくてごめん。

ボロボロなりによく走ってくれたと思う。
ありがとう。
そしてその時僕は思ったのだ。

俺はもう大人だし、車のローンくらい組んでもいいんじゃないか?と。

もちろん車がないと明日からの仕事は回れないし、移動の足も無くなるしで理由は十分だった。

整備すればいい、そんな愛着があるなら直してやれ、そう思うのもわかるさ。
でもわかって欲しい、25歳で人並み以下の俺が欲しかったのは車じゃなく『車を買ってもいい信用のある大人』というレッテルだ。

今まで自分が車を買うなんて思ってもなかったし、買うことができないと思っていた自分を見返すいいチャンスじゃないか。

考えるまもなく僕は車屋に走った。

最初は安くて走ればいいな、なんて考えていたが車屋が近づくにつれてかっこよく早い車がいいとか、みんなを乗せても快適なでかい車がいいとか、昔のクリスマスシーズンのトイザらスに行く時くらいワクワクした。

そうこうしているうちにフィットが最後の仕事と言わんばかりに僕を車屋に運んでくれた。

『お待ちしていました』
担当のお兄さんの爽やかな挨拶が緊張をほぐす。
そこからはスムーズに世間話も交えて、欲しい車の話をした。

現物は少ないが、見たほうがインスピレーションは湧くと思いますよ、と一緒に車を見てくれた。

ある程度見ていて、僕はカローラルミオンという車に一目惚れしてしまった。
多分燃費も悪いし、多分古いし、多分人気はない。
でも、俺ウケのいい四角いケツ、セダンみたいな顔、なのに荷物が積めるでかいボディー。
それでいて62万。最高じゃないか。

ケツは知り合いのステッカーまみれに、内装はより仕事のものを減らしておしゃれにしてー

一瞬でこいつを買うと決めたのだ。

ディーラーのお兄さんも喜んでいた。

僕は雑魚だから62万も一括では払えないし、自営業でローンは組みづらい、そう思い自社ローンでの購入になるだろうと伝えると、早速自社ローンの審査をしてみましょうという話になった。
お昼からローンの審査に取り掛かり、店を出たのは6時だった。

端的に言えば、ローンを通すのに4時間かかったのだ。

急に車を買いにきたくせに、ローンな上に普通の信販系のローンは組めないヤバいやつだからだ。
書類不備や、収入を証明する情報がなさすぎてどうしても時間がかかっていた。

つまり、現段階では自分は無職以下、なんの照明も持たないヤバいやつとして車屋に舞い降りたのだ。

恥ずかしいし、なにより悲しかった。

2年間働き詰めて、色々犠牲にして、大人になると自分と向き合い、やっとやっとの思いでここまできたのに。
俺は何をやっていたんだろう。どこで間違えたのだろう。

でも車屋で急に泣き崩れる訳にはいかなかった僕は道化を演じる笑顔で聞いてみた。

『本当にお手数をおかけしまして、申し訳ありません。

ところで、僕よりか審査が通らない人っていたりしますか?』

それを聞いたディーラーのお兄さんは困った笑顔でこう言った。

『反社の方か右翼団体の方ですかね!』

俺と同じ天秤に、反社会性力と右翼団体がいる。
ないHPをマイナスまで削るには十分であった。
もう失うものはないやと、帰ろうと思っていたところディーラーのお兄さんが驚いた顔で僕にこう言った。

『え!?平成10年生まれの24歳ですか!?
9月11日生まれの川崎がご実家ですか!?

名前以外僕と全く同じです!!
本当に驚きました!!!』

驚いたのはこっちの方だ。
誕生日が国際テロの日なうえに、全く同じ生年月日の人が目の前にいる。
そんなことこの際もうどうでもよかった。

問題は、俺とあなたとの差が目の前にハッキリと見えてしまったことである。

こんな話があったお陰かどうにかローンは通せるらしく、また後日必要書類を揃えて車の話をすることになった。

帰り際、お兄さんは笑顔で送り出してくれた。

『雨やみましたね、よかったです。
安全に帰れた方がいいですからね』

おかしいな、雨が止んでいるはずなのに、フロントガラスは濡れていないのに、運転している視野が悪いな。
おかしいな、雨など降っていないのに。

大人の階段はそう簡単には登らせてもらえないみたいだ。
俺はまだシンデレラなのか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?