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コラムvol.1「地域におけるアントレプレナーシップの育成」

 「起業家力向上コラム」では、起業に関する最新のトピックをご紹介します。
 vol.1は高知大学 地域協働学部 コミュニティデザイン研究室 准教授の須藤順さんより、「地域におけるアントレプレナーシップの育成」をテーマにお届けします。

1. アントレプレナーシップへの関心の高まり

 企業はもちろん、様々な領域で近年、「アントレプレナーシップ(entrepreneurship)」が注目を集めている。日本語では、「起業家精神」と訳されるが、起業家としての資質、行動特性と理解できる。
 アントレプレナーシップは決して新しい概念、キーワードではない。経済学者ジョセフ・シュンペーターがその主著『経済発展の理論』において、イノベーションの遂行者として企業家(起業家)を定義して以来、経済成長の主要な機能を担う主体としてその存在は認識されてきた。
 その後、経営学者ドラッカーによる『イノベ―ションと企業家精神』により、アントレプレナーシップは企業だけでなく、社会的機関においても重要であるとの主張がなされるなど、あらゆる領域においてその必要性が理解されてきた。
 そして近年、その領域はNPOセクターや公共セクターへも拡張され、あらゆるセクター、領域においてアントレプレナーシップの重要性が議論されている。

2. アントレプレナーシップへの注目の背景

 アントレプレナーシップへの注目が高まる背景としては、1)社会環境の劇的な変化、2)テクノロジーの進展、があげられる。
 2016年のダボス会議で使われ注目を集めるようになったVUCAに代表されるように、いま我々が対峙する社会は、過去の延長線上に予測することが難しく、不確実性の高い、先行きの不透明な世界となっている。
 こうしたVUCA時代に対応するには、すさまじい速度で変化する環境に対して受け身的に対応するのではなく、新たなアイデアの実現に向けて粘り強く、何度も挑戦していけるマインドセットを持った人材が必要となる。つまり、新たなリーダーシップの在り方の一つとしてアントレプレナーシップへの関心が高まったと言える。
 次に、IoTや5G、AIなどテクノロジーの発展は、第4次産業革命と称されるように、我々の働き方や仕事そのものを変化させつつある。こうしたテクノロジーの加速度的な進展は、自ずと、ビジネス環境にも影響を与えることになる。したがって、そうした新たな技術環境を踏まえたイノベーションの創出のできる人材の必要性への注目がアントレプレナーシップへの関心を高めていると理解できる。

3. 地域におけるアントレプレナーシップの必要性

 現在、アントレプレナーシップが最も求められている領域の一つとして挙げられるのが、地域社会であろう。
 現在、多くの地域は、人口減少、少子高齢化、若年者の域外流出、地域内消費の減少に伴う地域経済の低迷、耕作放棄地の増加や担い手不足、そして、地域コミュニティの希薄化など、いまだ人類が経験したことのない課題を数多く抱えている。
 政府や自治体は、地方創生の掛け声の下で様々な施策に取り組んでいるものの、その道のりはまだまだ遠いというのが実態だろう。
 どこにも正解がないなかで、目の前で深刻化する課題の解決に対し、これまでにない新しい発想で粘り強くその解決を目指して行動できる人材が地域社会には求められている。すなわち、アントレプレナーシップが必要なのである。
 

4.地域全体のアントレプレナーシップを育てる

 起業や新規事業創出を行うということは、ある意味、批判される場へ自ら足を踏み入れることともいえる。これまでの常識や当り前を変える提案は、必ず誰かからの批判を受ける。また、どこにも解決策が示されていない課題の解決は一筋縄ではいかない。むしろ、うまくいかないことの方が多いだろう。
 それでも果敢に挑戦し、何度も何度も粘り強く歩みを進めていけるかどうか、批判を受けても自信を持って行動し続けることのできる人材をいかに地域で育てていくかが、今後の地域を占う意味で重要となる。
 アントレプレナーシップは机の上で本を読んでいては学べない。よく例えとして、自転車の乗り方に似ているといわれるように、転んでも大丈夫な場所で、何度も何度も練習することでその感覚をつかむことは可能だと言える。
 もちろん、ビジネスとして成功するかはわからない。しかし、重要なのはビジネスで成功することではなく、目の前に立ちはだかる困難な課題に果敢に挑戦することに楽しみを覚えてぶつかっていける人材をどれだけ地域で育てていけるかである。
 そうした人材が、地域の中小企業、行政、学校などあらゆる組織に育つことが、地域の課題解決にとって最重要だと言える。
 もちろん、起業家をどれだけ育てるかは重要である。しかし、起業家はその地域がどんな文化や雰囲気を持っているかに依存する。新たな挑戦をする者を、みんなで応援し、称賛する地域なのか、出る杭を打ち、失敗したらそれをあざ笑う地域なのか。
 地域にアントレプレナーシップを持つ人が多い地域では、たとえ、全員が起業をしなくても、きっと、挑戦する人を称賛し、一人ひとりができる範囲で応援してくれる人のたくさんいる地域になる。
 起業家を育成するには、起業家のみを育てるのでは効果は少ない。むしろ、地域全体でアントレプレナーシップを育てる、そういう視点での取り組みが地域には求められる。

プロフィール

須藤 順
(高知大学地域協働学部コミュニティデザイン研究室 准教授)

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博士(経営経済学)、社会福祉士、LEGO®SERIOUS PLAY®メソッドと教材活用トレーニング修了認定ファシリテータ。医療ソーシャルワーカーとして勤務後、中間支援機関スタッフとして、コミュニティビジネス/ソーシャルビジネス、まちづくり/コミュニティデザイン支援に従事。(独)中小企業基盤整備機構リサーチャー(農商工連携政策及び中小企業人材育成等を担当)を経て、現職。専門は、社会的企業論/社会起業家論、起業家育成、コミュニティデザイン、ソーシャルビジネス、アクティブ・ラーニングなど。マイプロジェクト手法を活用した起業家育成、地域イノベーター育成に関する実践と研究を各地で展開。2018年2月中小企業庁・創業機運醸成賞受賞(「マイプロジェクト手法を活用した学生向けの起業・新規事業開発支援」)、消費者庁新未来創造戦略本部国際消費者政策研究センター客員主任研究官(2019-)、中小機構人材支援アドバイザー(2014-)等。


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