穴の空いた靴下(9話)

柴田と倉石は飲食店が立ち並ぶ通りを歩いていく。平日の夕方だからか、そこまで人は多くなかった。

「あ、そもそもまだ店空いてないかな……」倉石は腕時計に目をやり呟いた。
「まだ16時過ぎですもんね……」
「だよねー。ちょっと電話してみるわ。多分開店準備はしてるはずだから」

倉石はそう言ってスマートフォンを取り出し電話をかける。二人は道の端によってしばし立ち止まることにした。

「……もしもし。あ、店長?ご無沙汰してます、倉石です。……いやいや、仕事が忙しくて。まだお店開いてないですよね?今近くにいるんでお邪魔させてもらおうかなって……大丈夫ですか!ありがとうございますー。すぐ着くと思うんで。あ、2人です。嫁じゃないですよ。え?……浮気でもないですって。それじゃあ後ほど。失礼しますー」

倉石は電話を切って、柴田に微笑む。

「OKだって。よかったー」
「ありがとうございます。本来は年下の僕がやるべきなような……」
「そんなこと気にしなくて良いよ。突然誘ったの俺なんだし」

倉石は優しく柴田の肩を叩いて、再び歩き始めた。柴田もそれに続く。

お店は昔ながらの居酒屋という佇まいで、カウンターとテーブル席が4つあった。開店前なので客は柴田と倉石だけだ。

「どうも、ご無沙汰してます」
「おおー礼ちゃん!いつぶりだよ?元気してたか?」
50後半に見える口ひげを生やした店長は親しげな様子で倉石と話す。短く整えられた白髪にシルバーのフープピアスを付けていた。似合っているのもあるが、この年齢でピアスを付けているのはかっこいいなと柴田は思った。

「礼ちゃんの後輩?その子?」と店長は柴田の方に目をやる。
「いや、さっき知り合って無理やり連れてきたんですよ」
「あ、柴田と言います」
「若いねー。礼ちゃんそっちの趣味に目覚めたの?」
「違いますって!三上の追悼式で会ったんですよ。さっき行ってきて」
「ああ……そうだったのか。礼ちゃんがこっち来るっていうから圭介の追悼式帰りだとは思ってたよ。俺も昼間に行ってきたとこだからさ」
「立派な式でしたね」
「そうだな。圭介もあっちで元気にやってると良いな……」
「ですね……」
「あ、立たせててごめんな。とりあえず座りな。カウンターで良いかい?」
「大丈夫です。柴田くんも良い?」
「あ、はい!」
「二人とも飲み物はどうする?」
「俺はビールが良いかな。柴田くんは?」
「僕もビールでお願いします」
「そしたら瓶ビール1本もらって良いですか?店長も開店前にちょっとだけ付き合ってくださいよ。三上に献杯しましょ」
「そうだな。じゃあ、お言葉に甘えて」

店長はカウンターの後ろにある冷蔵庫から、瓶ビールと冷えたグラスを3つ取り出し、小さな栓抜きでそれを開けてグラスに注いだ。「ありがとうございます」と店長にお礼を言って柴田と倉石は手に取った。

「礼ちゃんが音頭取ってよ」
「……わかりました。それじゃあ、天国に逝っちまった三上のご冥福を祈って……献杯」

3人はグラスを合わせ、調子を合わせたように一気に飲み干した。乾いていた喉を、ビールがじんわりと潤していくのを柴田は感じた。

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