穴の空いた靴下(4話)

柴田は改札を抜けてホームへの階段を降りる。
スマートフォンで目的の駅までの時間を調べると50分ほどで着くらしい。追悼式の会場までは最寄駅から歩いて10分。「1時間くらいか」スマートフォンをスラックスの左ポケットに突っ込み、やってきた電車に乗り込む。平日の昼間だからか。急行にも関わらず車内は空いていた。柴田は端の席に腰を落とし、少し眠ることにした。

人が降りていく気配を感じて目を開ける。気づくとそれなりに乗客が増えていた。ドアの上に表示される駅名に目をやると、乗り換える駅に着いたようだった。眠気が残り重い体をゆっくり起し、他の乗客の流れに乗って電車を降りる。

エスカレーターを上がり、乗り換え口の改札を抜けると小さな花屋があった。ここで献花用の花を買うことにしていた。イヤホンを外して首にかけ、陳列されている花を一通り見て回る。「初めて花を買うのがこういうタイミングになるとはな……」そういえば何を買うべきなのか調べていなかったことに気づいた。「スマートフォンで調べるか」とポケットに手を入れようとしていたところ、店員の若い女性に声をかけられる。

「プレゼント用ですか?」

長く伸びた黒髪を後ろから前に持ってきて左肩の前で結っていた。花屋がよく似合う清潔感のある女の子だった。柴田は再び陳列されている花に目をやる。

「ああ……今から、亡くなったミュージシャンの追悼式に参列するんですけど、献花用の花ってどんなの買えば良いんですかね?」
「そうだったんですね……それでしたら、あまり派手なものではない方が良いかと思いますので、こちらの白い菊の花がよろしいかと」
「ありがとうございます。じゃあ、これを二輪もらえますか?」
「かしこまりました。こちらは二輪まとめて献花用にお包みすればよろしいでしょうか?」
「あー、いや、別々に包んでもらっても良いですか?」
「かしこまりました」

柴田は店員と端にあるレジまで移動した。店員は作業台のような白い小さめの机に菊の花をそっと置き、レジを操作する。

「では、どちらも献花用に包ませていただきますので少々お待ちください。お先にお会計させていただきますね」
「あ、はい」柴田はトートバッグから財布を取り出す。
「二輪で、お会計420円です」

千円札を出してお釣りをもらう。所作一つひとつが丁寧な女の子だなと思った。店員が献花用に包んでくれている間、店頭の花をぼんやりと眺めていた。「次に花買うのはいつになるのかな」そんなことを考えていると、店員が包んだ花を持ってきてくれた。

「お待たせいたしました」
「あ、ありがとうございます」

綺麗に包まれた二輪の菊の花を両手で受け取り、軽く頭を下げて乗り換える電車のホームへと向かう。花に顔を近づけると少し爽やかな匂いがした。「菊ってこんな匂いなのか」

ホームに着くとすぐに電車がやってきた。肩にかけていたイヤホンを両耳に戻して電車に乗る。

この文章をお読みになられているということは、最後まで投稿内容に目を通してくださったのですね。ありがとうございます。これからも頑張って投稿します。今後とも、あなたの心のヒモ「ファジーネーブル」をどうぞよろしくお願いします。