穴の空いた靴下(5話)

15分ほど電車に揺られ目的の駅へとたどり着いた。平日でも若者で賑わう改札口を抜けて、すぐ近くにある喫煙所へと柴田は向かう。雑踏の音を打ち消すようにイヤホンから流れる音楽のボリュームを上げた。

15時32分。腕時計を確認してタバコに火をつける。ポツポツと雨が降ってきた。気がつけば、電車に乗る前よりも、空は黒に近い灰色の雲で覆われていた。

柴田がタバコを吸い終わると雨脚は強まってきた。小走りで駅へと戻り改札の外にある売店でビニール傘を購入する。

ふっ、と短く息を吐き、追悼式が執り行われている会場へと歩みを進めた。

追悼式が行われる会場は、ライブを見に何度か行ったことのある場所だった。あまり方向感覚があるわけでもない柴田も、地図アプリを開くことなく、迷いのない足取りで歩いていく。「最後に行ったのはいつだっただろうか」ぼんやりとした記憶をたどる。「そうだ……綾奈と二人で行ったっけ……」

大通りに面した歩道を進んでいく。途中で礼服を着た人たちとすれ違った。皆、何かが抜け落ちたような、そんな表情をしていた。柴田はイヤホンを外しトートバッグの中に入れた。右側に会場が見えてきた。

会場の正面には「三上 圭介 追悼献花式」という看板がかかっていた。会場前のスペースには、ぼんやりと立ってそれを眺める人や、うずくまる人、涙をぬぐいながら会場を背にする人の姿が柴田の目に入った。

柴田は傘を閉じて、ゆっくりと、入り口へ向かっていった。

この文章をお読みになられているということは、最後まで投稿内容に目を通してくださったのですね。ありがとうございます。これからも頑張って投稿します。今後とも、あなたの心のヒモ「ファジーネーブル」をどうぞよろしくお願いします。