穴の空いた靴下(6話)

会場内は薄暗く、何度も足を運んだことがあるはずなのに、柴田は初めて来たような感覚を抱いた。

奥にある献花台までの通路には所々にスタッフが立っていて、柴田に向けて「ありがとうございます」と頭を下げた。柴田もそれに応じて会釈した。

ステージ上の献花台は、中央に三上圭介の大きな遺影が飾られ、その脇には三上が生前使用していたギターが何本も飾られていた。そして前面にはたくさんの花が献げられていた。ステージの上部に設置されているモニターには三上の写真がスライドショー形式で映され、スピーカーからはloch(ロッホ)の曲が流れていた。

会場の左側に献花する人たちの列ができていた。柴田は最後尾に並び、列が動くのを待った。献花台の前で泣き崩れる人や、長い時間にわたって祈り続ける人もいた。列が進み、柴田も献花台へと二輪の白い菊の花を供え、三上へ黙祷を捧げる。

生きている人間は、死んだ人間に対して、何ができるのだろうか。多分、死んだ人間にとって、葬式も、追悼式も、菊の花も、祈りも、届きはしない。生きてる人間が、死んだ人間を忘れないために、敬意を払うために、現実と向き合うために行う儀式。その一つが今この空間なんだろう。そんな考えが柴田の脳裏に浮かぶ。目の前の遺影をじっと見つめ、もう一度手を合わせて頭を下げる。

ステージ右横にある出口へと向かおうとした時、一人の男の姿が目に入った。男はじっと三上の遺影を見つめ、静かに涙を流していた。胸元で合わせる手の甲には、骨を模したタトゥーが入っているのが見えた。

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