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氷を喰らう女

私の朝は氷から始まる。  

吐く息が真っ白になる真冬の朝、その寒さにブルブルと震えながら、冷凍庫を開けて氷をひとつ口にいれる。 
ガリッと奥歯で嚙み砕く。氷の欠片がしだいに細かくなりながら口の中に散らばり、ひんやりとした水分が喉を落ちていく感覚は、何にたとえようがないほど気持ちがいい。  

職場には、その7割が氷で埋め尽くされた携帯マグにアイスコーヒーを持参して、合間合間にガリガリかじる。
休日はタンブラーいっぱいに氷をいれて、心置きなく喰らい続ける。  
毎日毎日、氷を喰う。

おかげで夏でも靴下を手放せないほどの冷え性で、平熱は35度台の低体温。36度は私にとっては微熱だし、37度を超えたら高熱である。
一昨年、インフルエンザで38度台になったときは、意識朦朧となり死ぬ思いをした。  

低体温は免疫力が下がり、基礎代謝量も低くなって太りやすく、良いことは何ひとつない。
わかっている。すべてとは言わないが、8割方氷が原因だ。でも、わかっていてもやめられないのだ。  

店内に入るまではホットドリンクを飲みたいと思っていても、氷の誘惑には勝てず、常にアイスを頼んでしまう。
氷はまるで麻薬のようだ。

この、氷を喰らわずにいられない症状を氷食症というらしい。
明確な理由はまだ解明されていないようだが、鉄欠乏性貧血の人に多く見られる謎の症状だ。  

道理でね。
私は中学生のときから健康診断のたびに鉄欠乏性貧血と診断される、筋金入りの鉄不足の女なのだ。  

だから、人目もはばからずカフェでカップの蓋を外し、ガリガリ氷を喰らう女がいても、病気だと思って見て見ぬふりをしてほしい。  

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