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2000文字に足らないホラー

 この部屋の隅っこに、

じっとたたずんでいる薄暗い影がある。
さっきからじっとしてその場所に動かない。
少し前は、ちょうど入り口の扉の上あたりに浮かんでいた。
いつのまにか移動したようだ。やっと居心地の良い場所を探し当てたのか。

そいつはずっと以前からここに住んでいる。
いやいや、住んでる、という表現が魂か亡霊かわからない暗い影に対して、正しい表現かどうかは疑問だが。

 そしてついさっきから、影は話しかけてきた。
音としてではなく、たぶん脳に直接なにかを響かせてきている。
感電の弱い刺激とでも例えればわかりやすいかもしれない。
眼球の奥で、小さく痺れて微振動のように震えて脳が受信してる。
それを言語に変換している。
そんな機能が人の脳にはあるのかもしれない。

まるでマッドサイエンティスト風だな。
自分が笑えてくる。
昔観たハマー・フィルム制作のフランケンシュタイン博士のモンスター映画みたいだ。

うぐっ、痛い!

今のは強かったぞ。
どうやら闇は実体を求めているようだ。
さては、この身体に憑依して移ろうとしているのか。

断固拒否したい。
しかし受け入れられそうもない。
彼奴は、この部屋のロード主なんだ。
何代も前から、何年も前から、この場所に住み着いているようだから。

言葉が繋がった。
わかる、わかる、わかる。

「おまえの心の中の、ひだの奥に入り込ませろ。そして支配させろ」
くぐもった重たい声だった。
まるで死期が間近の重篤な入院患者のような。死臭漂いそうな声だった。

「新鮮な身体が必要だ。もう何千年もずっと影のままで、ここですごしてきた。新しい宿が欲しい」

 突然、息苦しくなってきた。呼吸ができない。
何かが肺の上に覆いかぶさって押さえているような気分だ。
「うぐぐ、やめろ化け物め。人の世界から去れ!」

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