揺れるパールのイヤリング


サッと振り返った彼女のパールのイヤリングが、小刻みに揺れて震えていた。
人が行き交う雑踏の中、それだけがキラリと光って道しるべみたいだ。
僕らの道はもう、繋がっていないというのに。



最初の一瞬は、わからなかった。
交差点の向かい側に、彼女は両手に紙袋を下げて立っていた。
青信号。近づいてくるその姿を見て、ハッとした。長かった髪は肩で切りそろえられていたけれど、それは確かに僕の昔の恋人だった。忘れられない、優しすぎる女性。

黒のブーツにロングコート、あの頃はしていなかったオレンジ色のリップが垢抜けて見えた。
あぁ、あれから時間がすぎて、彼女はこんなに素敵な人になったんだ。

思い出の波が徐々に膨らみ、津波のように競り上がって心を覆う。
小さな部屋で食べたクリスマスケーキ、すり寄せられた鼻先の冷たさ、昼も夜も分からず抱き合った窓の遮光カーテン。

「かすみ……っ!」

絞り出すような小さな叫び声が漏れた。
振り返る彼女の髪は、確かに見たことがないほど短くはなったけれど、あの頃と変わらず優しくカールしていてふわりと空中で揺れる。
その耳に光る、白いパールのイヤリング。
僕が渡した、最後のクリスマスプレゼントーー


人混みの中、僕らの視線が交わることはなく、彼女はゆっくりと前を向く。
「気のせい」でいい。僕らの再会はなかったことでいい。
だって僕はまだ君を見てこんなに心揺らしてしまうから。
いつかまた、もっと優しく君と向き合える日までーー


『カフェで読む物語』は、毎週土曜日更新です。
よかったら他のお話も読んでみてね!
次週もお楽しみに☕️


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