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結婚前夜



目が覚めたとき、不意に理解した。
これはメッセージなのだと。


結婚することが不安だった。
2人の人生が一つになることが怖かった。
そうなったらきっと、私はもうずっとあの人に囚われてしまう。
大好きが愛してるに変わって、名前を変えるのと同じようにどんどんあなたを受け入れていって、あなたが私の一部になって、別の人間なのに自分の一つになる。
それがどれだけ恐ろしいことか。

もし別れたら?もし事故があったら?
あなたを失ったとき、私はもう立ち直れない人間になってしまうかもしれない。
そんな弱くて脆い人間になってしまうかもしれないのだ。
これまで全部自分でやって、失敗も成功も自分のものとして背負ってきた。
他人の力に依存したことなんてなかったというのに。


そうして、あの人からプロポーズを保留にして1ヶ月。
私は、今日夢を見たのだ。


私は腕の中に小さな赤ちゃんを抱いていた。
それが自分の子供だとなぜだか知っていて、「守ってあげなきゃ」とバタバタとあちこちへ走り回っているのだ。
疲れているはずなのに、その子を胸に、全く不満ではなかった。
「よかった……」
笑う赤ちゃんを見つめたところで、目が覚めた。


しばらく、ぼーっとしてしまった。
赤ちゃん…私の赤ちゃん……
小さな体を胸に抱いていたときの、心の温もりを感じる。

「ちゃんと、可愛かったな……」

自分が子供を産んで育てることをまだ上手く想像できていなかった。
今だってそうだけど、でも少なくとも夢の中で、可愛いと思えた。

「私の赤ちゃん……」

きっとあの人との命だから、一層守りたいと思うんだ。無条件に愛おしくてたまらなかった。

失うことを恐れては、得る喜びも与えられない。
そういうことなのだろう。
大切なものほどなくしてしまうと悲しくて辛い。
でも、臆病に自分を守ってばかりではせっかくの幸せは逃げていき、その先に待っていた未来も失われてしまう。
あの子はそのことを伝えに来たのかもしれない。


「可愛かったなぁ……」

またつぶやく。
別れという痛みがいつか訪れたとしても、深い傷を負うことがあるとしても、
私はもう一度あの幸せに触れたい。

怖がりでごめんね。
胸の内で、2人ともに謝る。


今日、あの人に電話をかけよう。


『カフェで読む物語』は、毎週土曜日更新です。
よかったら他のお話も読んでみてね!
次週もお楽しみに☕️


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