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ロック好きな高校生に「ワンオクって、洋楽ですか?」と訊かれたはなし

「若者の○○離れ」という私の大嫌いな言葉があるんだけど。

中年世代の音楽ファンの間では「最近の若者は洋楽を聴かない」というのが共通認識としてあって。だから訊いてみたんです、「洋楽は聴くの?」って——。

クレイジーキャッツを聴かせたら、「ボカロの曲っぽい」と

その昔、音楽の専門学校に勤めていて。今でもごくたまに、そうした若者たちと話す機会はあったりするんだけど、ミュージシャンや音楽業界を目指す学生だから普通の子たちよりも詳しい。今人気のアーティストはもとより、それこそ、往年の海外アーティストや教科書的名盤あたりも授業のカリキュラムに入ってたりするからね。じゃあ、もっと下の高校生は洋楽聴いてるのかなぁと。ずっと気になってた。

そんな中、ちょっと縁があってロック好きな高校生数名にいろいろ話を聞く機会がありまして。軽音部やバンド活動してる子ではなく、漠然と「バンドやってみたいなぁ」と考えてるロック好きの男女。

クリープハイプ04 Limited Sazabysとか、予想通りのバンドがいろいろ出て来て。ちなみにBiSHはこの辺の括りらしいです。「アイドルじゃないの?」と言ったら、「楽器を持たないパンクバンドです!」と強く返されました。この概念はちゃんと浸透している様子。ニューミュージックや歌謡曲といった、古き良き“日本の歌”の話の中で、クレイジーキャッツ「スーダラ節」を聴かせたら、「ボカロの曲っぽい」との感想が。そうか、そういう見方もあったか。コミカルさをリズミカルにキャッチーなわかりやすくテンポよくまとめている楽曲って、いまはボカロにあるんだよね。生身の人間が歌っている音楽のほうが複雑になっている。わーすた の「大志を抱け!カルビアンビシャス!」を聴いたとき、随分古典的手法のポップソング持って来たなぁと、関心していたら、ボカロPの楽曲だったということもあったりね。

「ワンオクって、洋楽に入りますか?」

そして、ずっと気になっていたことをぶつけてみる’。

「洋楽は聴きますか?」

そしたら、みんな下を向きながら「うーん」と考えたあとに、1人がこう口を訊き返してきた。

「ワンオク(ONE OK ROCK)って、洋楽に入りますか?」

少々斜め上ではあったものの、まぁ、想定内だったかな。「英語で歌って海外で活動している」ということ自体が、彼らにとってはもう洋楽なんですよね。向こうでツアーやって、日本では大きい会場でスケールのどデカいライヴをやって……って、それは、テイラー・スウィフトとなんら変わらないのかもしれないね。尤も、“洋楽”という言葉自体が曖昧になってしまったというか、もう使われない、使う必要性のない言葉のような気もするし。

洋楽への憧れって、もうとっくにないでしょう。90年代のオルタナ〜ミクスチャー、そしてブリットポップブームくらいが最後だったんじゃないのかな。ビョーク聴いていればオシャレだとか、『OKコンピューター』をわかったふりしていたり、WAVEのグレーの袋がステータス……みたいな90年代。“フェス”で海外アーティストと日本のアーティストが同列に並んだときに、それは終わっちゃったんだよね、きっと。

ひとくちに「ロックが好き」と言っても、日本のバンドだけでも満足できるじゃないですか。いろんなバンドがいるし。見方によってはいいことだよね。それは「日本のロックもそれだけ発展したんだ」ということだと思うから。

昔だったら「何言ってんだ、洋楽ってのはなぁ、」とか、「これ聴け、あれ聴け」なんて講釈垂れてたと思うけど、そういうのはなんか違うって、あるとき気づいたんですよ。そりゃ「このアーティスト知らないの?」みたいなこともあるけど、それを強要してもしょうがないよね。ただね、訊かれたらいくらでも応えられる術は用意してるんだよ。おじさんたちは。

ビートルズ聴かないオレかっこいい

1993年に『寺内ヘンドリクス』という、ギターを題材にしたバラエティ番組があってね。伝説的な番組で数多くの名シーンがあるんですけど、個人的にすごく印象的で覚えているのが、俳優・山本耕史のこと。

番組内の「ギター異種格闘技〜アリと猪木〜」というさまざまなプレイヤーが競演するコーナーでのこと。当時駆け出しの若手俳優だった山本耕史と、ドリフターズの仲本工事の対決。対決前に対談してたんですけど、山本耕史クン、クソ生意気そうな高校生でさ。ちょうどドラマ「ひとつ屋根の下」で人気出はじめた頃。

「布袋寅泰さんというギタリストがいて」「これは野口五郎さんからもらったギターで」とか、G&LのLEGACY(S500かも)を片手にいろいろ話すんだけど、なんか鼻についた喋りで、挙句「ボク、ビートルズってのは聴いたことがないっ(ドヤッ」とキメるんですよ。ビートルズの前座を務めた大先輩の前で。仲本さんも「そんな世代かぁ」なんて大人な対応してるんだけど。

その後、彼は演技派俳優として活躍して、ギターやロック好きとしても知られるようになる。だから、どこかのタイミングで「ビートルズってのは聴いたことがない」とドヤったことを絶対後悔してるはずなんですよ。興味がなかったのか、それとも聴いてないことにしたのか、理由はどうであれ、あのときは“ああ言って大人に刃向かう”ことが彼なりの美学だったわけ。大人になってから若い頃の浅はかさを恥じることって誰にでもあるよね。

だからね、「ワンオクって、洋楽に入りますか?」と私に訊いてきた高校生がね、

「あんとき俺、すっげぇバカな質問したな……」

と思ってくれる日が早くくればいいな。

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