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「being digital 2007」その4

Ⅲ-2-A.コアとなる組織、職務のイメージ

Ⅲ-2-A-1.「プランニング機能」の再定義

ビット=デジタル化した情報をハンドリングしたコミュニケーション・プランニングを行う時の前提として、「自動適応性」「自己記述性」と言うビットの持つ性質をハンドリングする「情報設計」を行う機能を持つ事が必要になってくる。
広告表現或いはコンテンツを、メディアを超えてミックスし、情報を届ける大きなシナリオの設計を行う役目を持つ人間が、コミュニケーション・プランニングのセンターに座り、コミュニケーションプラン全体を通しての「情報設計」の設計図に責任を持つ役割を担うものとして、その役割を「コミュニケーション・シナリオ・プランナー」と名づけたい。
この職種の役割はまず、現在のアカウントプランナーやクリエーティブディレクターが担っているコミュニケーションコンセプトやビッグアイデアを発想し、コミュニケーションプランのセンターに置くと言う事がある。
同時に、コミュニケーションプラン全体の中で使われる(或いは受け手の側で使われるであろう手段も含め)コンタクトポイント全体を俯瞰し、発信する情報(ある時は広告表現、あると時はコンテンツなど)の構造を設計する役割も担う。
すなわち、「どんなメッセージを発信するか」「どんなコンタクトポイントで発信するか」「その時にどの様な情報構造(ヘッダの与え方や自動適応に対しての柔軟性をどこまで担保するかなど)を持つべきかと言う大まかに言って3つの大きな役目を担う。

これまでの広告会社のプランニングプロセスは、マーケティングやアカウントプランニングと言った戦略を設計するセクションからのブリーフを、広告表現の設計者であるクリエーティブディレクターに渡し、そこで作られる広告表現を軸にしてプロモーションのプランナー、或いはメディアプランナーなどのエクゼキュージョンに近い部分を受け持つセクションのプランナーが、より具体的なエクゼキュージョンプランの設計を行うといった、ある種の分業体制で作業が進んでいる。無論、プラン全体を統括するキャンペーンディレクターとして営業が全体の調整を行うといった事はあるが、基本はそれぞれの職能の中での分業が行われながら全体を構成してゆくと言うプロセスが取られている。

しかし、ビットを最終的に再構成するインテリジェンスを持ったエージェントが情報の受け手の側に配置される、と言う状況の中でのコミュニケーション戦略立案のためには、前述したコミュニケーション・シナリオ・プランナーが、ストラテジー→コンセプト→クリエーティブ設計→コンタクトポイント設計までをホリスティックに設計、プロデュースする形でプランニング業務のハブとなるべきであろう。現在の職種で言えば、アカウントプランナー、クリエーティブディレクター、メディアプランナー(含むプロモーション)の3つの役回りを担うと言うスーパーマンのような職種として、プランニング業務の全てを統括してゆく職種と言う事となる。

そして、従来のそれらの職種にプラスして是非とも持っていなければならないのは、情報設計に対するリテラシーである。
すなわち、広告表現を塊としての広告表現としてだけ捉えるのではなく、ビット=デジタル化した情報の集合として捉え、受け手の側でインテリジェンスを持ったエージェントに対して、どの様な形で自動適応をされるかと言う事を見越したヘッダの設計と言った事も念頭に置き、一つのメディアのためだけに最適化された表現設計や情報設計をしない目線が必要となってくる。

次にプランニング上の職種として重要となるのは、「クリエーティブ・デベロッパー」と言う職種である。
これは既にAKQAなどの欧米のインタラクティブエージェンシーで、職種として現れているが、アクションスクリプトなどのプログラミングスキルなどを用いて、フラッシュや様々なアプリケーションを駆使し、テクノロジーを使ってメディアやクリエーティブを作ると言う職種である。
ビットを前提としたコミュニケーション・プランニングには、テクノロジーとクリエーティブの融合は不可欠であり、これらの両面の力を持ったクリエーティブ・デベロッパーが、クリエーティブチーム或いはメディアチームの中に存在する事はマストになってくる。

従来の概念でのクリエーティブスタッフ、マーケティングスタッフ、メディアプランニングスタッフはこのコミュニケーション・シナリオ・プランナーをハブにして衛星のように存在してゆく事に成り、全てのプランはコミュニケーション・シナリオに沿って設計、運営されてゆく事で、本来的な意味でのメディアニュートラル、手法ニュートラルなコミュニケーション・プランニングが出来る形となる。
このユニットはもはや「プランニング」ユニットに留まらず、クライアントの課題を解決するハブとなる「ソリューションユニット」と呼ぶにふさわしいものとなるはずであり、広告会社にとって中々実現が出来ていない、ソリューションに対しての対価の請求をするためのエビデンスとなれる可能性を秘めているのではないだろうか。

Ⅲ-2-B.「営業機能」の再定義

従来から広告会社は広告主と言う媒体社と言う「二つのフロントライン」に向いた組織体制を取っている。
一方で広告主の宣伝予算と言う資産を預かり、他方で媒体社の広告スペースと言うこれも大切な資産を預かるために二つのフロントラインを持っていた、組織上は「営業」「媒体」と言う二つのセクションに分かれるものの、機能の本質としてはどちらも「カウンターパートの課題解決のための窓口」と言う性質を持っている。
但し、これまでの広告会社の収益モデルは、マスメディアのコミッションと言う事を前提としていたため、広告主の方向を向いている営業セクションも、最終的にセールスをしているものが、マスメディアの媒体スペースやコンテンツの利権と言う事になっていたと言え、ある意味で「提供している価値と、セールスしているものとのコンフリクト」を起こしていたと言えなくも無い。
この事が、クライアントに「課題解決力の提供=広告会社のプランニング力」に相応の対価を請求しにくいと言う歴史的経緯を産んできたと考えられる。
つまり、「結局のところ媒体スペースを売りに来ているのじゃないの?」と言う疑念をクライアントに抱かせたり、「マスのコミッションで儲けているのだからいいでしょ」と言った形で、いわゆるプランニングにまつわるフィーを請求できないと言う事態が多かった。
また広告主の中には、広告会社に経営或いはマーケティング上の課題解決をアシストしてくれる機能や組織がある事、或いはその能力と言うものについての認知・理解がされていないケースもあり、これらは広告会社側の怠慢によるものであろう。
情報設計の専門家集団となり、広告主の課題解決をその収益の中心に据えて行くと言う形に広告会社のビジネスを変化させてゆくためには、まずこの「営業」と言う機能が、媒体スペースのセールスを一義的に考えた販売集団から、広告主の戦略課題を的確に捉え、広告主の相談相手となるコンサルタントとしての機能を持った集団となり、その事をきちんと広告主に伝えて行く努力を行う事が必要となる。

従ってビットの時代の広告会社の営業に求められる機能は、

①広告主の悩みの「相談相手」としてその「悩みを課題に置き換える力」。
②その「課題」を「広告会社としての仕事に変換する力」
③その「仕事」を「広告会社内での作業に分解」する力
④そしてそれらの仕事を統合して社内スタッフを束ねるプロデュース力
⑤クライアントおよび、広告会社社内の合意形成をスムーズにこなして行くためのファシリテーション力

と言った形になってくるものと想定され、今の広告会社の平均的な営業職のスキル以上の、コンサルタントとしての力量を求められてゆく事になると考えられる。
クライアントの課題のソリューションを提供するためのコンサルタントであり、それを実現するためのコミュニケーション・プランニング作業における、「プランニング・プロデューサー」と言った立ち位置が、ビットの時代の営業職には求められてくるものと想定される。
そして何よりも大切な事は、この新しい営業が「自分の働きに対して広告主から対価をいただける存在になる」と言う事である。それだけの付加価値を従来型の営業に比べて感じてもらえるだけのスキル、ノウハウを持ったフロントライン、それが新しい営業像と言えるのではないだろうか。
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