見出し画像

社寺検分のすゝめ -本願寺 唐門③-

まだまだ本願寺唐門が続きます。
せっかくなので親鸞様のバースデーまで本願寺尽くしでいきましょうか。

前回は「獅子」をテーマに取り上げました。
百獣の王のオンパレードで圧巻、個人的に非常に満足しています。


さて今回は他の生き物たち、
唐門を賑わす霊獣・動物を取り上げます。
では早速に。




まずは霊獣さんたちから。
「動物」より「霊獣」の方が社寺彫刻ではなんとなく格上ですので
霊獣ファーストでいってみましょう。


麒麟きりん

唐門正面より虹梁上の欄間彫刻で麒麟1対。
今回の麒麟たちの中ではイチバンこちらが好みです。
同じく正面の麒麟。ややうつむきのシブイ顔。
先の麒麟と体色は同じ黄土で、毛は色違いですね。
こちらは背面の麒麟さんで、やや憤った勇ましい表情。
麒麟との組み合わせは五色の雲「瑞雲」が多いです。
背面。まっすぐ行く先のみを見据えた感じ。
この子だけ眼の色の塗り方が違います。


麒麟といえば、以前の大河ドラマで一躍その名を全国に轟かせた霊獣です。
あれをきっかけに
霊獣界隈がフィーバーするのでは…!
霊獣ゆるキャラとか流行るのでは…!

と思いましたが、そこまでではなかったようです。


殺生を嫌い、足元の草や虫も踏み殺さない穏やかな性質をもち、
王が仁あるまつりごとを行うとき、出現する瑞獣・麒麟。

ドラマならずとも
幼少より秀でた子を「麒麟児」といったり
あの飲料メーカーの素晴らしいデザインで意外と身近なキリンさんです。

泰平な世の中、仁ある政治といったイメージから
社寺彫刻でもメジャーどころの霊獣でよく見られます。


御香宮の板壁に描かれた麒麟。体毛がヒョウ柄テイストです。
黄土に落ち着いた茶色の毛。落ち着きがあって良い配色。眉だけ青い。

日吉東照宮の蟇股にいる麒麟さん。
こちら体毛は「風車紋」で表現するスタイル。


麒麟の体毛表現を考え出すと、話がどんどん明後日の方向へ走り出していくのでオイトイテ。

鱗なのか毛なのか、どちらでも良いのかは私の永遠の研究テーマです。


お次は龍です。少し小さい部材ですが、孔雀の下に2体いらっしゃいます。
けっこうご機嫌なお顔。
前脚に宝珠で三本指です。
日本に来てから指の本数が少なくなった(指を詰めた)龍と覚えると、
なんとなく仄暗い気分になれます。
この地を這う、ちょっと走れそうな脚がやや古式感あり。

もう1体の龍さんも可愛らしい系です。


門脚の間には沓を献ずる張良の図。
クツ獲り争いに負けた龍(観音様の化身)の上に乗ってます。
勇気を持って道を求めるべし!な意匠を開門に絡めたのでしょうか。


龍はこの3体で、いずれもオーソドックスな彩色です。
場合によってはメインを張ることも多い龍ですが
今回は獅子さんに完全に主役の座を明け渡した状態ですね。


実は霊獣がこれで打ち止めなんですよ。


獅子・麒麟・龍。この3種のみです。
獏!とか、海馬!はいらっしゃらないのです。
(鳳凰だけは金具でいますが)
そこまで特別なビックリではないものの、
しみじみ「やはり本願寺唐門は獅子の門よなぁ」と思います。


さて、霊獣の他にも
もう少し生き物が唐門を彩ります。


孔雀

正面、門の上の中央蟇股に堂々たる孔雀。
背面からも見られる透かし彫りです。背後の植物は牡丹。
シャキーンと実に姿勢が良い。
ゴージャスな鳥です。

孔雀は浄土の六鳥の1つで、本願寺さんにとっては縁の深いもの。
だからなのかセンターを飾っておられます。
六鳥以外でもサソリや蛇を食べることから、なかなか根強い人気をお持ち。
孔雀明王もいることで、既に霊鳥レベルのちょっと特別な鳥さんです。

その割に仕事では出会っていなかったんですよね。
類例も少ししか持っていなかったので今回収穫できたのは嬉しいところ。


虎・豹

ちょっとわかりづらいですが側面の上の方に虎がいます。
側面2体ずつの合計4体で虎と豹が対になっています。
背面側の虎さん。
獅子と同じくネコ科の本性を隠す気配なし。
虎と夫婦にされる豹さん。
豹は虎のメスverと思われていたのはよくある話。
今回の修理でヒョウ柄が復活したようです。
反対側面の虎さん。タケノコとのツーショット。
虎の黒目の彩色は特別で、三日月形にするのがポイントです。
ちょっと凛々しめの豹さんですが…
おまけの画像に乞うご期待!


社寺彫刻にはよくよく虎と豹の夫婦像があつらえられています。
十二支的に徳川家に縁が深いことや龍虎の組み合わせ
果ては子育てのイメージキャラクターにまでなる愛でられぶり。

今回いろいろ調べていて初めて知った「虎と竹」のいわれですが
「虎にとって唯一恐れる生き物はゾウで、そのゾウが入ってこられない竹林が虎の唯一の安息場所」だそうです。
「唐獅子牡丹」同様に、力の強いモノが心休める処という画題。
時の権力者の心理や人間の求めるものに思いを馳せるとなかなか味わい深いもので、非常に興味深いです。
ただの爽やか配色のための組み合わせではなかった。


こちらは背面側の中国故事で「許由巣父」の巣父の方。
汚れた水を牛に呑ませるわけにはいかぬ!の一場面です。
この牛をひく縄が彫刻ではなく実際の縄なあたりが面白い。
彩色資料としては秀逸なもの。
牛さんの背骨にそってアクセントが入れられているのを発見!


龍で紹介しました「張良」の相方「黄石公」の図。
クツを落としたのはこの方です。若者を試すお爺さんを乗せたお馬さん。
こちらも彩色資料用のショット。
おしりあたりのぼかし方って結構迷うので、こうしたものがあると重宝。

牛は人に牽かれ、馬は人を乗せ、そうして私に微妙な角度から撮影され。
なんともまぁですがありがたい。
身近な生き物かつ、のっぺりした彩色になってしまいやすい題材は
彩色する時に持て余すことがありまして。
こうしたちょっと魅せる味付け、参考になります。



もうこれで一通りと思いきや、
いちばんてっぺんにこの生き物。

妻(屋根の三角部分)に舞い降りる鶴。


体をややひねって降下。
レリーフ状ではなくほぼ丸彫りの妻飾彫刻です。
反対側の鶴さん。
こちらはふわりと降りてくる様子。
屋外だというのにこの後ろの亀甲彫り。
金箔に黒漆で面朱までついてくるとは、いやはや豪勢です。




いかがでしたでしょう。

獅子以外の生き物よりも獅子の方が数で勝る唐門。
色んな姿態を楽しんで頂けたのではないかと思います。

だいぶと根掘り葉掘り唐門画像をあげ続けていますが

まだ次回もやります。



最後まで読んで頂きありがとうございます。
それではまた次の投稿で。






おまけ

凛々しい顔の豹さんが別角度からは激カワです。
社寺の実地検分の楽しみはここにあり。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?